『じゃあ、取り扱い説明書読むよ?えーっと…ときめきエッグは育成者の嗜好を汲み少女の容姿や、性格を決めます…孵化は温め始めてからおよそ一時間……らしい』

「早いですね。温めながらどんな子にしたいかお願いすればいいんですかね」

「多分そういうことです」

「つか、なんで卵生なんだよ。つくづくあいつの趣味きめえ」


嫌な顔を隠さずにそう言ったアンヤ。腕いっぱい広げて卵に抱きついて温めるアカツキに笑みが零れる。でも多分それじゃ熱が足りなさそうだけど……。


「あの…熱源が足りないかもしれません。鶏の有精卵でも38度前後で温めますから…こんなに大きい卵なら多分もっと...」


その言葉の通り準備室とやらから、ストーブを持ってきて暖炉と一緒に火をつける。湿度も必要らしいのでお湯を沸かして周りに置く。たまに卵を転がさないといけないらしい。


「めんどくせーな…風呂場で茹でりゃいいじゃん」

『(流石育成マニア……本格的ね)』

「お……」

「お………おぉ…?」

『マキノくん?』

「温泉卵…」

『〜〜ぁははッ!』


ジッと沸かしているお湯を眺め彼、マキノはそう呟いた。隣のアンヤはまさに目が点状態。私なんて変にツボに入り笑いが止まらない。


「…テメー第一声ほんとにそれでいいのか」

「チン…」

「お前もうしゃべんな」

『も、もうやめて!!お腹痛いから…!』

「テメーも笑いすぎだ!鈴!」


ダメだ、マキノがこんなに面白い人だとは思わなかった。こんなに笑ったのいつぶりだよ…。ほんと。レンジの前に座り込み何を考えているのかレンジでチンだなんて呟くマキノ。


「チンしたら美少女爆発しませんか」

「あ〜〜〜…電波系が増えやがった」

「アフロ」

「だめです!!し…初期設定を甘くみちゃだめです…一時の受け狙いや気まぐれでおかしな初期設定をすると、のちのちシリアスシーンで必ずしょっぱいことになります。デフォルト全裸や名前に"ああああ"などもってのほか。育成ゲームは奉仕の精神、毎日いかに時間と愛とお金とこだわりをつぎこむかで完成度に雲泥の差が出ます。丹精こめて育てるからこそ完成した暁に最高の満足感が得られるのです。美少女も牛も畑のお野菜もみんなかわいい私のベイビー。みなさんもどうかベイビーのためにがんばりましょう。死ぬ気で」

『(…………お、おぉ……)』


卵を孵化させるため各々検討していたが、五人で卵を囲うように手を繋ぎ、ひび割れ始めた卵に向かいそれぞれの好きなタイプ(?)を思い浮かべる。女の子…ねぇ、あーとりあえず…


『(…優しい子…かなぁ)』


自然と浮かんだあの子の笑顔。その瞬間ひびからは眩い光が溢れ出てくる。思わず目をつぶり数歩後ずさった。色素の薄い瞳のせいで皆より遅く生まれてきた女の子を視界へと写した。


『…ふ、あははっ!!』


突然笑い出した私をアンヤは気味悪がるように眺めるが気にもとめず、ムラサキと名乗ったパンダの女の子の前へ。


『はじめまして、ムラサキ。君のおっかさんの一人…鈴です。よろしくね』

「はいっ!!」

「アカツキ…テメーだろパンダ混ぜたの」

「す、好きな相手のこと考えたらついちょっぴり」

「ちょっぴりレベルじゃねーよ!!!どーすんだ!こんな毛モジャで学園のアイドルが落とせるか!」

「駆堂さんそれはあんまりです…!あ、愛嬌があってかわいいじゃないですか!美少女育成なら元の顔がひどければひどいほどむしろ燃える展開です!パラメータをこつこつあげるか最悪課金でテコ入れすれば誰でも見れる顔になるんです!うちのムラサキだってきっと素敵なレディになります…!!」

『(何気にヒミコちゃんのが酷いこと言ってねぇか……?ん?)』


私なんてと呟きながら、ブチブチと自らアフロの毛を抜くムラサキの手を掴み辞めさせる。


『何言ってんのムラサキ。あんたは充分可愛いよ。アフロが嫌ならどうにかすればいい、どうにでもなるよ。それにね、女は白黒ハッキリつけないぐらいが狡くて丁度いいんだから(…見た目のこと言ってるんだろうけど)』


最後に、また、ね?と軽く微笑む。目に涙を溜め、おっかさん!と抱きついてきたムラサキの頭を撫でてやる。それに続くようにアカツキ、ヒミコが同じようにムラサキを慰める。もう大丈夫かと、アンヤの方へと下がった。


「こいつらマジ頭いてぇ……」

『あら、それは私も入ってるのかしら。皆可愛いじゃない』

「何言ってんだ。ったく、テメーもなんとか言え」


そう言ってアンヤはマキノを睨むが、マキノはムラサキを見つめだけ。視線に気づいたムラサキが見つめ返すがその数秒後……頬を赤く染めたムラサキの出来上がりというわけだ。目で落とすってそういうことかよ……。というか本当だったのかよ……。いや、チートすぎんだろ!!


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