〈泥にまみれて優しいふり〉
この世界に

望んでもいないのに

産み落とされて

気づかぬ間に人生は

スタート切っている


W偶然W

という名のない

必然で構成された

この世界へ

年を重ねれば重ねるほど

この世は生きにくく汚く

嫌な世界だと人は知る

ねえ、そこのお嬢さん

未来を見据えて何に怯えているの?

何処まで逃げても世界は変わらない

と いうのに


あの日

キミが綺麗な花を摘んで

手が腫れてしまったのは

無知だったからで


そこにいる虫を潰してしまったのは

花に夢中で見えていなかったから。


悪気はないことでも

大人は全て処罰しようとする。


誰の〈責任〉なのか

誰に〈責任〉を押し付けるか

そんなことばかり考えている。


そんなこと、キミみたいなお嬢さんは

知らないし知らなくていいよ。


それよりも今日は

あの娘をどこに連れて行こうか。


汚い大人に負けないぐらい

理論で覆せるくらいの子にしなきゃ

この世は何も変わらない。


それが僕には出来る。

ドス黒い程の自意識もある。


キミは年を重ねると

この世は汚い世界じゃない

と、僕に反論した


優しさで

溢れているのだと


だが

優しさで

傷つく世界が

ここにある


きっと、キミの言うWやさしさWは

誰かを容易く傷つけることができる


だから今すぐ僕に

優しさを与えてみてよ

容赦なく傷つけてみなよ


そうすれば

きっとわかるから


あれからキミは

学校という場所に

通うようになった。


取り残されないように

せいぜい空気を読んで

思ってもいないことを

口にするようになった。


皆に合わせるのがW正解Wだと。


そのうち

キミの代わりは

見つかってしまうよ

彼女達は敵を作るのが上手


W気に入らないW

その一言で、キミさえも

一人にしてしまうんだ。


そのうちやっぱり優しさだけを

信じ続けたキミは独りになった。

キミは

そこで初めて

W憎むWという

感情を知った


「私、あいつは嫌いなんだ

見るだけで吐き気がするの」

と、口にした。


優しさを信じ続けた

自分を憎むべきか

汚いこの世界か


だから


「アナタに私の全部をあげる。

 アナタだけは信じさせて。」
そう、キミは僕に告げた。


キミの弱さに浸って

僕は利用した。


「手当たり次第 

弱そうな子に声かけて

味方につければいい。


いらなくなったら

全て捨てればいい。


僕が此所にいてあげるから。

大丈夫、僕は君の味方だから

心配いらない。」

そのうちキミは

手当たり次第

声をかけた。


独りでいたくないが為に

誰かといる自分を

心の中で見つめ

悦に浸って


気に入らなくなったら捨てる。


勝手に私の黒い優しさに浸ったのが悪い。

一生なんていらない。存在しない。


隣で泣き喚く利用した彼女を

横目に見て、次は誰にしよう。

そんなことを思いながら

鼻歌を歌っていた。


ああ、でも、きっと

こんなのおかしいって

わかってはいるのに

やめられない


この世界を

生まれたときに

教えてくれた彼も

ここにいる誰かも

皆もおかしい。


でもきっと、一番私が馬鹿でおかしい。

世界は、人の行方は、どうして

そんな簡単にW必然Wによって

決まってしまうのだろうか。


こうなったのも、

私のせい。

全部私のせい。


あの人が

誰にも笑なくなったのも

心を閉ざしてしまったのも

人に怯えるようになったのも

私のせい。


もうどうしようもない、この世界を愛するべきか

どうしようもない、自分を愛するべきか


もうわからない。
わからないから

あなたに全部あげる。


私の命も、心も、身体も

全部あげるから

信じていい?


あなたしか、私にはいないの。

だから、お願い。信じさせてよ。

ほら、またあの子も、

私のせいで泣き出した。


── 「終」───