思い出話をしよう。私の初恋の話だ。 恋の落ち方は人それぞれだと思う。雷に落ちるように。気が付いたら好きになっていた。そもそも好きかも分からなかった、だけど居心地がよかった。 私は明確に、好きになった瞬間を覚えている。 それは中学時代、筆箱を忘れてしまった日のこと。何も不思議なことはない。誰しも一度や二度は当然に起こりうる、ありふれたことだ。 忘れたことに気付いたのは授業が始まる直前で、席の近い友達に借りようにも運悪く風邪で休んでしまっていたし、また別の友達は席が遠かった。 大して仲良くない子に借りるのもなあ、なんて、思春期真っ盛りの私は身動きを取れずにいた。 授業が始まって十数分。教科書をいつもより立たせて机の上が見えないようにガードする。いつ黒板の板書きを写していないことを注意されるだろうかとヒヤヒヤしていた。全員の前で注意されるのも嫌だし、かといって人から借りるにはもう手遅れ感が否めない。 どうしよう、どうしようと冷や汗をかき、教科書を支える手に汗が滲む。 カタリ、と。机の上に、文房具が転がってきた。 グリップの柔らかい流行りのシャーペンと、力任せに千切られたいびつな形の消しゴム。 投げられた方を見ると、隣の席の男子が机に伏せって寝ていた。 まさか、そんなはずはないとその時の私は思った。 それまで、その生徒からはあまり良い噂を聞かなかったからだ。喧嘩ばかりしていたし、授業もサボるし、寝るしで怒られがち。よく遅刻をしてくる、不良のような人。 だが、見つけてしまったのだ。隣の席の筆箱の横に転がる、投げられたものと同じようにいびつな形をした消しゴムを。 ありきたりだと思うだろうか。単純だと笑うだろうか。それでも、私はそんな些細なことで恋に落ちたのだ。 20200509 back |