あの星の名前を脳裏に焼き付けて



幸福。彼といることは、幸福だった。



『ブラック家の』『純血一家の』『スリザリンとグリフィンドール』『純血なのに』『血を裏切る者』『グリフィンドールの裏切り者』



他人の噂など、何一つ耳に入らないくらい、彼といると幸福だった。



「なまえ。」

「あら、シリウス。こんにちは。
相変わらず怖い顔ね。」

「お前、まだレギュラスとつるんでるのか。
せっかくグリフィンドールに入って家からの干渉を絶てたっていうのに。」

「別にわたしはシリウスみたいに自分から家との繋がりを絶ったわけじゃないわ。
向こうから拒絶されただけ。」

「なら尚更、」

「それにわたし、グリフィンドールよりも家よりも、レギュラスが大事なの。」

「……そうかよ。」



心底不快そうに吐き捨てた彼は、それ以降二度と話し掛けてくることはなくなった。

それでもわたしは、幸福だった。





「何で貴方がグリフィンドールにいるの。」

「さあ。組分け帽子に聞いてほしいわ。
強いて言うなら、緑色より赤色の方が似合うからじゃないかしら。」

「馬鹿みたいなこと言わないで!
グリフィンドールは勇気ある者が集うのよ!
正義と騎士道を胸に抱く正しい人間が、なのに何で貴方なんか!」

「正しい?正しい人間なんていないわ。」

「何を……闇の家の生まれのくせに!!
シリウスは家出までしたっていうのに、貴方はいつだってスリザリンと、闇と共にいるわ!」



目を合わせるとあからさまに肩を跳ね上げるその子は、周りの反応を見るに、どうやら『外れ者』のわたしを『内』に戻そうとしたシリウスに好意を抱いているらしかった。
そんなに必死にならなくても、どうせシリウスは、同じく『外れ者』の自身を肯定する為に、わたしを仲間に率いれようとしただけだというのに。



「誰の目にも闇に映っても、わたしにとっては、レギュラスだけが光なの。」



他のことなんてどうだっていいわ。闇に固執する家も、正義(グリフィンドール)に固執するシリウスも、血に固執するスリザリンも、対立にしか固執出来ない貴方たちも。
降りかかった呪文はその場に現れたレギュラスが全て防いでくれたので、どこも怪我をすることはなかった。
けれど、悲しそうにわたしの頬に手を添える彼を見るとどうしようもなく胸が痛んだ。

それでも、貴方さえ側に居てくれれば、わたしは幸福だった。





「帝王に、仕えるよ。」

「そう。」

「あの方の為に、この命を捧げると決めた。」

「そう。」

「なまえ、君は、君の為に生きたっていいんだよ。」



涙を流すわたしに口付けて置きながらそんなことを言うなんて、酷い人。



「酷い人ね、レギュラス。」

「そうだね。」

「わたし、貴方を愛していると言ったわ。」

「そうだね。」

「この左腕ごと、貴方を愛すと言ったわ。」

「そうだね。」

「わたし、自分の幸せをきちんと分かっているわ。だから、もうこれっきりなんて、言わないで。」



貴方の泣き顔と引き換えの幸せなんて、何にもいらないわ。不幸のどん底にいたって、貴方がいればそこが幸福の入り口でしょう?
貴方はまた一つ、そうだねと消え入りそうな声で漏らして、それから、あいしてる、と涙を一つ溢すのだ。

ああ、これが、わたしの幸福の全てで構わないと思う。





「なまえ……目を開けて、お願いだ、目を、僕をもう一度、」

「ねえ、レギュラス。」



次に生まれたその時は、血も家も敵も味方も何一つ存在しない、あの空の上で瞬く美しい星の隣で生きていきたいわ。

今度こそ、何のしがらみもなく。



『ねえ、レギュラス!
わたしね、お妃さまになるわ!』

『お妃さま?
お姫さまじゃなくて?』

『ええ、そうよ!
あのお空の上できらきらひかる、小さな王さまのお嫁さんになって、ずっと幸せにくらすの!』



レギュラス、貴方の隣で。



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