02
こんな偶然って存在するんだなって他人事の様に考えてしまっている自分がいるが、そんな私がこの偶然を全身で受け止めてしまっている。
次の日が休みという事もありちょっと仕事帰りに居酒屋さんに寄って飲んじゃおう!と思い立ったが吉日。今日は金曜日もあってかどこの居酒屋さんも満席満席で「ごめんなさいね、」と謝られる始末である。誰だ、吉日だなんて言い始めた奴は。
折角飲みたい気分だったのにこれはもう諦めてコンビニでお酒買ってお家で飲んだ方が良いのかもしれない。踵を返そうとした時、声をかけられた。
「みょうじさん?」
「えっあ、つ、月島さん?でしたよね?」
「はい、月島です。覚えていて貰えて良かったです。飲まれていたんですか?」
「飲もうかなと思ったんですけどどこも満席でして…なのでもう諦めて帰ろうと思っていた次第です。」
「お一人ですか?これから予約してある所行くんですが良かったら俺たちと飲みますか?」
「あっいえ、そんな大丈夫です」
スマホの件がすっかり頭から抜け落ちてしまっていた為咄嗟に名前が出てこなかったが辛うじて出てきた名前を呼んだが間違っていなかった事に安心したが何だそのお誘いは。
俺たちって事は月島さん以外の人も居るという事で、人見知りがある私にとって全く知らない人と飲むなんて地獄でしかないし、よくよく考えてみれば月島さんと一回しか面識ないのだが、もしかしてこの人誰とでも仲良く上手くやっていけるタイプの人だったりするのか。
「鶴見さんもみょうじさんに会ってみたいと言ってました」と、この前より幾分かマシになった顔色の月島さんが朗らかに笑う。強面だと思っていた人が笑うとこんなに可愛いものなのか。迂闊にもときめいてしまった。
ところでツルミさんって誰。
「1人くらい増えても大丈夫ですよ。行きませんか?」
「いえいえそんな、」
「俺が誘ったので全部払いますし」
「行く〜!」
最後の一押しで陥落した私は人が良さそうな顔をした月島さんにタダ酒が飲めるとホイホイついて行ってしまった。
それを後悔するのはツルミさんたちと合流してからだった。
***
お家に帰ろうとしていた時間に戻りたい。
月島さんに連れられ居酒屋さんまで行くとその入り口の前にスーツを着た男の人が2人立っていた。
1人は以前うちの店にスマホを落として大騒ぎしながら受け取りに来た褐色イケメン。もう1人は初めて見るヒゲを生やしてやさしそうな笑みを浮かべるかっこいいスラッとしたおじ様風の人。顔のいい人の周りには顔のいい人しか集まらないの?月島さんは強面だが芯の強さがある、男前な顔をしている。軽々しく「イケメンだね!」って言えるものではない、「男前過ぎて三歩下がってついて行きます!」と言いたいタイプ。
私に気づいた褐色イケメンがまた何やらよく分からない方言で此方を指差しギャンギャン吠えている。私来なかった方が良かったのでは?そんな彼を「ん〜さっぱり分からん」と軽く笑い私の目の前に手を差し伸べてくるおじ様。
「君がみょうじさんだね、私は鶴見。先日は鯉登と月島がお世話になったようだね。」
「は、初めましてみょうじなまえです。」
「鯉登がスマホを忘れたとか」
「あ、はい、そうでしたね。そんな事もありました。」
「最近は物騒な事もあると注意してくれたそうじゃないか、君は優しい人なんだね。」
ぎゅっ、と私の手を握りニコリと笑い、話を投げてよこす鶴見さんだが目が笑ってない所とかめちゃんこ怖い。来るんじゃなかった。
握手をした事により先程以上に煩くなった褐色イケメンに耳を塞ぎたくもなった。
「鯉登さん、お静かに。」
「す、すまん…」
とても今更な話だが私はこの褐色イケメンの名前を知らない。スマホの時は月島さんの確認をしただけだったので当の本人の名前を聞かなかったのだ。それに彼はスマホが返ってきた事による喜びでそれどころではなかったし。
コイトさんって言うんだ、そう小さく呟いたら月島さんが「そう言えば名乗ってませんでしたよね。」とコイトさんに尋ねた。
「…鯉登音之進と言う、あの時は世話になった。その、た、助かった。」
「みょうじなまえです。スマホ見つかって良かったですね」
「ああ。」
忘れてはいないだろうか、まだお店の入り口の前だと言うことを。私たちはまだお店にすら入っていない。店に入っていく人達が「何してんだよ邪魔だな」って顔で私たちを見ていくのを「ごめんなさい」と心の中で謝罪しながらその視線をスルーしていく。
鶴見さんの「入ろうか」という声にようやくお店に入ったは良いがこの人達初っ端から焼酎ロックでがば飲みなんですけど。特に鯉登さんの勢いが尋常じゃない。え、それ水なの?入ってるの水だったりするの?って思うほどのハイペースである。私はというとお酒は飲みたいが弱いためにアルコール度数の低いものをチビチビ飲んでいくスタイルの為、この世界について行けなくて苦笑いだ。
どんどんおかわりしていく彼ら(主に鯉登さん)に比べまだ一杯目の私に目を付けたのが鯉登さんだった。
「酒が減っちょらんぞ!ほらたくさん飲め!」
「も、むり…」
「む?おいん酒が飲めんのか?1人で酒を飲もうとしちょったんじゃろ?さあ飲め!」
「月島さぁん…!」
「はぁ、鯉登さん。みょうじさんが困ってますよ。」
「みょうじさんはお酒は飲むが弱いのだね。」
私用に鯉登さんが注文して運ばれてきた焼酎の水割りに心遣いが垣間見えるが心遣いするところ間違ってる。
「ほら、飲め」
「グゥ…!お酒弱い人間に焼酎はダメですって!」
ようやく水割りを半分飲めたんだから褒めてくれても良くない?もっと飲めとか酷くない?鬼なの?イケメンのくせに鬼なの?イケメンは心の中もイケメンだと思ってたのに全然そんなことなかった、鬼だった。というかスマホの件で中身は残念なイケメンと言うのを知ってるからそこまでの衝撃は無いがプラス鬼となるともうこの人やだ。
ニコニコと私と鯉登さんを眺める鶴見さんと度々止めに入ってくれる月島さん、コップの中身が少なくなるにつれて視界がぼやけ始める私と、そんな私にもっと飲め!と笑う鯉登さん。
「っ、も、のめま、しぇん…」
ぽしゃ、と自分のアルコールのキャパが越えてテーブルに頭を打ち付けそのまま意識を飛ばしたのを月島さんは頭に手をやり、鯉登さんは揺さぶり起こそうとし、鶴見さんは未だにニコニコしながら眺めていた事を私は知る由もなかった。