あの日から天女が私に、いえ、私たちくノ一に心を許すようになって数日が経った。
以前よりはマシな顔で「シナ先生、シナ先生」とまるで子供が親を探すように、慕うように無垢な顔で駆け寄ってくるのだ。ああ、なんて愉快。
忍たまや男性教師達だけが天女に恨みを抱えていると思ったら大間違い、私にだって可愛い生徒であるくのたま達がいるのだ。そんな可愛いくのたまを今までここへやって来た天女はみんな傷つけてひどい時にはその命を奪ったのだ。輿入れが決まって5日後には退学する筈だったくのたまは天女の反感をかって顔に傷をつけられ輿入れの話は無くなり、このご時世、顔に傷がある女なんて誰も欲しがらない。泣きながら私に謝罪し翌日命を絶った。少しぶつかってしまった、忍たまと目があった、自分の手伝いをしてくれなかった。ただそれだけの小さな事で、私の可愛いくのたまは無残な姿に変えられた。なぜ。何故この子達がこんな目に遭わなければならないの。わたしの、かわいい、くのたまが。


「ふふ、今日は顔色良いみたいね。安心しましたよ。」

「シナ先生の、お陰です、私シナ先生がいなかったら…」

「そんなもしもの話はよしましょう?さあ、一緒にお茶は如何?ほら、茶菓子もあるわよ?」

「わ、あ。美味しそうですね、あ、えっと、でも、私が頂いても…?」

「あなたの為に用意したのよ、私の気持ちを無碍にしないでくれると嬉しいわ。」

「あ、ありが、とうごさいます…」


頬を小さく染めてはにかむ天女に、チクリとどこかが痛んだ気がした。そう、気のせい。
気のせいでしかない。だってこの子は天女、私の可愛い子を酷い目に遭わせた人でなしなのだからこの子が受ける罰は星の数ほどあるのだ。せいぜい私に惑わされなさい。私に裏切られた時の顔が、今から楽しみでならない。

だから甘い甘い蜜を今のうちにたくさんあげる。
幸せそうな顔も、ぐちゃぐちゃに切り刻んであげる。
天女に人としての幸せを奪われた憐れな子の、復讐にあなたの全てをかけて償って貰わないと割に合わない。


「ねえ、あなたは今幸せ?」

「え、あっ、その、シナ先生と、いると、幸せです、」

「嬉しいことを言ってくれるのね。」


反吐が出そう。今すぐにでも目の前にいる天女の首をはねてやりたい。
のに、この子の顔を見るとこのおぞましい感情を抱く自分を殺したくなるのはどうしてなのか。あの子達の穏やかだった生活はこの天女たちに壊されたのに、もうあの頃には戻れないのに、この天女は笑っている。許せないのに、どうして。
違う、笑ってるのではない、この子は、


「私、シナ先生に出会えてよかった、」

「あなたには、あなたなりの良さがあるわ。それをみんなが知ればきっと幸せになれる。」

「…そう、ですね。」

「ほら、また辛気臭い顔してるわよ。女の子でしょ?笑わなきゃ」

「ふふ…このお茶とても美味しいです。」


出されたお茶を一口、また一口と口に含んでまた笑うこの子に一体何の罪があるのか。
あるじゃない、あるじゃない。みんなみんな傷付けて一人笑ってる。そうよ、この子は消えるべき存在。じゃなきゃ、じゃなきゃみんなが報われない。

ちがう、ちがう。

ちがうのよ。


「シナ先生?どう、しましたか?」

「いえ、少し考え事してたのよ。今度のくのたまたちのテストどんな内容にしようかしらって」

「忍びのテストって、難しそうですね…」


きっとわたしには出来ないです。


そう笑って言って、彼女は。


(心で泣いていた。)


わたしには かんけいないわ。