04
真っ暗なフワフワとした空間で私一人だけがポツンと立っている。
誰かいないかと尋ねたいが何故か声が出ない、ここはどこだろうか。体は動くようで私は足を一歩一歩進ませるが進んでも進んでも目の前には真っ暗でまるで闇に包まれてしまっているかのよう。先に進んでも闇なのだけは分かっているのに歩み始めた足は止まらない。不意に後ろから何かが聞こえて来た気がした。振り返ると遠い所にぼんやりと光るものが見え、無意識に私の足は走り出した。
一体どれだけ意識を飛ばしていたのか分からないが体が揺さぶられる感覚とひんやりとした額に意識がはっとした。
「…………、ん…」
「あ、起きた?」
「…だ、れ」
光に向かって走っていたと思ったら目を開ければ黒髪のセーラー服を着た女の子と着物を着た女の子がわたしの顔を覗いていた。私が意識を飛ばしている間に一体なにがあったのか。
「大丈夫?森で倒れてたの犬夜叉が見つけてくれたの」
「いぬ…?」
「そう、犬夜叉。」
「…………犬の夜叉?」
「名前に夜叉って入ってるからあれだけど良い奴だよ」
「それより名前は?」
「あ、みょうじなまえ…です。」
プチパニックになっていたがセーラー服だ、そう、セーラー服。見たことがあるぞ、高校生が着る制服だ。という事はこの子はまさか私と同じ境遇なのでは…!ようやくお仲間さんを、人間を見つけたこの喜びを誰にぶつければ良いのか分からない、嬉しい、良かった、安心した。とにかく涙が出そうなくらいの安堵感に私は女子高生の手を握る。
「ああああああの、私、ここの者ではなくてっ、あの、わたし!」
「なまえさん落ち着いて、私は日暮かごめよ。もしかして貴女も現代の人だったり…?」
「私、お家に居たんですけど気付いたらここに居て…化け物に襲われるわ追い回されるわでもうてんやわんやで…」
「大変だったんだね、私は珊瑚。よろしく頼むよ。」
年下の女の子たちにハグをされ頭撫で回されて泣くとは思わなかったがそんなまさかこんな号泣してしまうだなんて。
なんとか泣き止み小さくお辞儀をして介抱してくれたことにお礼を言って立ち上がる。が。空腹なうえ散々走り回り足はもうガクガクな状態だったためかヘロヘロと再び地に腰を下ろすことになった。なんてことだ。大丈夫かと聞かれるが大丈夫ではないようだ。
今思い出したが私は靴を履いていない、唯一のスリッパは捨て置いてしまったし私の足を保護しているのは血が滲んだズタボロの靴下のみだ。歩けば当然痛みが走る。そんな私を見たかごめちゃんがどデカイリュックから救急箱を取り出して早急に手当てをしてくれた。なんて優しい子なの。そしてそんなリュックよく持ち運べますね、怪力なのかな?
若干引いていると背後の茂みから大きな音を立てて犬耳の生えた銀髪の青年と錫杖を持った袈裟を着た男性が現れた。
「おい起きたか。」
「え、犬耳?」
「犬夜叉おかえり。どうだった?」
「いや、もう奈落はこの辺にはいねぇみてぇだ。匂いがしねぇ。」
「ならく!ならくってあの被り物の化け物ですか!私あの人に首締められたんですよ!」
「え」
こんな丸腰で非力な女に対して酷い仕打ちだよね。そう思うよね、かごめちゃん。
ならくと言う化け物に襲われた事を思い出し恐怖にゾクリと体が震えた。もう二度とあんな目に遭いたくない、聞けばここは戦国時代だそうで、化け物思っていたモノは妖怪で人間同士の争いが絶えない戦国時代にプラスで妖怪が参戦してくるだなんてどんな漫画なのか。怖すぎて目を覆いたくなる、そうだ元の時代に戻れるまでかごめちゃん達と行動を共にさせてもらえないだろうか。「大変申し訳ないんだけど、」そう声をかけようとした時だった。
「奈落に襲われたの?本当に?私たち奈落を追いかけてるのよ」
「な、なんで…?」
「奈落はおらたちの敵じゃからな!」
「ひぇ!?何この丸い妖怪!!」
「もう七宝ちゃん、なまえさんびっくりしてるでしょ。」
「話は逸れたが、奈落の匂いを辿って来たらおめぇがいたんだ。正直に言え。おめぇは奈落の仲間か?言えば一気に殺してやる。」
「え、な…殺されかけたんですよ!?仲間なわけ、」
バキ、指を鳴らすその仕草に再び恐怖を思い出す。
「ちょ、犬夜叉!?そんな言い方しないであげてよ!」
やっと涙が引っ込んだのにまたしても涙目になってる私を庇ってくれるかごめちゃんに感謝するがこちらに来てから襲われるのが頻発した先ほどの恐怖を思い出してしまったせいか足がガクガクしてきてしまった。こわい、全身という全身から血の気が引いていくのを感じ覚悟をする時が再来したようだ。良いんだ、本当だったらあの時花畑で死んでいたはずだったんだから。
ぎゅっと目を瞑りよっしゃ来い!と心の中で構えていると「うぎゃ!」という呻き声が聞こえてきた。恐る恐る目を開けると犬夜叉さんとやらが誰かに踏まれていたのだ。
「あ」
「ん?あ。」
「う、うわぁああぁあああああ!」
もうパニックだ。先ほどわたしを食料扱いした青年が現れたのだ。絶対絶命。もう逃げられない。だがもう死ぬ覚悟は出来てるのだから逃げないけれど。
「おい、お前…」
「い、一撃でお願いします!」
「は?」
「死ぬなら出来たら痛くないよう死にたいんですっ」
歯を食いしばり目をギュッと瞑りその時を待つ、が。なかなかやって来ない痛みに目を開けるとポカンとした顔をした青年がいた。
「…殺さないんですか?」
「いや、あれは冗談だ。」
「へ?冗談?」
「奈落がお前を狙ってたからな。いや寧ろ四魂のかけらをだがな」
「しこん?」
「とりあえず助かったみたいだな、犬っころに助けてもらったのか?」
「いや、崖から飛び降りました。」
「はぁあ?!」
「虫が…」
「まああれだ、無事で良かったな。」
「ありがとうございます」
「ってな訳でかけら出せ。」
さっと出された手に?が飛ぶ。かけら?何のだろうと思ったが川で拾ったかけらだと言われるとああ、と気付きポケットから出そうとすると今まで黙っていた犬夜叉さんたちが突っ込んできた。
「痩せ狼に渡させるか!」
「おすわり。」
「ふぎゃっ!」
「はっ!残念だったな犬っころ!」
「鋼牙くんもちょっと待って、なまえさんから四魂のかけらの気配が感じられないわ。」
しこんの玉とかなんだそれ。しこんって私恨?恨みの玉なんて物がこの世に存在するのか…なんて恐ろしい時代なのだろうか。でももっと古い時代から呪術とか存在してた訳だし戦国時代にそういった類いのアイテムがあってもおかしくはない。恐ろしいアイテムのかけらを拾ってしまったものだ、だからこうして散々な目に遭うのか…妙に納得しながらもごそごそポケットをまさぐる。
「あの、落としたみたいです…すいません…」
はあああぁぁ…と盛大なため息が聞こえたのは間違いではないようだ。そんな落胆しないでもらいたい、害のない一般市民が逞しい妖怪たちに襲撃され続けこうして生きているだけでも儲けモンだと思っていただきたい。
***
「本当にありがとう、このご恩を一生忘れない…」
鋼牙という青年が旋風を連れて去っていった後、私は彼ら一行にただただ感謝することしか出来ない。四魂のかけらという彼らにとって大切なモノを落とした事だけでもみんな怒る筈なのに許し、行動を共にする事を許可してくれたのだ。
なんて懐の深い御一行なのだろうか…
「良いんですよ、それになまえさんも私も現代の人間だもの!仲間意識がかなりするのよね」
「かごめちゃんは良いなあ、度々お家に帰れて」
「でも私学校行けてないから追試とかたくさんあるわよ?」
「追試…なんか懐かしい気がする」
「そう言えばなまえさんって何歳なの?」
「会社員とだけ伝えとくね…」
「今度数学とか教えてくださーい!」
「分かる範囲ならいいよ」
あの教科苦手、得意、学校あるあるをキャイキャイしながら話す私たちとは対照的に犬夜叉(敬称とれって怒られた)たちは意味が分からないと言った顔でこちらを見ていた。あ、慎もう。そう誓ったのだが、そんな事気にせずひたすら授業の事をズラーッと話すかごめちゃんに若干苦笑い。犬夜叉たちの顔見てみて、凄い顔してるよ。
しまいには地面に公式を書き出して何が間違っているのかを聞き出してそこでたむろする状態になってしまった。
こうなってしまっては進まなくても良いのだろうか、心配になり呆れ顔で見てくる犬夜叉とかごめちゃんを交互に見やって犬夜叉さんが聞いてやれ、と言うようにため息をついていた為完結に纏めてそこはやり過ごした。
「おいかごめ、四魂のかけらはどっちだ?」
「あ、こっち。近いわ、四魂のかけら。」
茂みに入りガサガサ中を進んでいく。かごめちゃんはまるでかけら探知機みたいだ。どうやら今わたしたちが探しているのは化け熊でなんでも人を食べるらしい。絶対わたし餌食になるわ。
小さく手を合わせて念仏を唱えた。化け熊といえば某ちほうのゆるキャラが頭を過ぎった。むり。あれは怖すぎる、あんな感じの妖怪なのだろうか?そんな妖怪に太刀打ち出来るのだろうかと思ったがよくよく考えてみれば私だけ何も出来ない本当非力な人間じゃないか。犬夜叉は半妖で刀、かごめちゃんは弓矢と霊力、七宝ちゃんは妖術、弥勒さんは法力と風穴(ブラックホールが手にくっついてる感じだと説明された)珊瑚ちゃんは妖怪退治屋の為飛来骨(背負ってるでかいブーメランだよって説明された)と毒物をそれぞれ携帯している。どこのRPG?ヒーラーいたらバランスのいいパーティーですね。熊なんて一発KOじゃん。私は犬夜叉御一行専属応援団1号になろうと決めた。
意気込んでいると私たちの進路を2人の野盗が道を遮ってきた。これは応援団1号の出番だな!腕がなるぜ!応援する態勢に入った時だった。木々が痛々しく薙ぎ倒し現れた化け熊に私は目が点になった。え、でかくない?脳みそ出てない?えぐくない?これ勝てるの?あまりのでかさに尻餅ついてヒィヒィ言ってると不意に額がキラリと光るのが見えた。
「額に四魂のかけらが…」
「おうっ。」
かごめちゃんが指を指すのは熊の額、キラリと光る四魂のかけらが埋め込まれている所。すかさず抜刀し斬りつける犬夜叉だったのだが傷は浅く唸り声を上げながら熊は森の中を走り逃げていった。てか犬夜叉の刀どうなってんの?普通の刀を帯刀してたじゃん、抜刀した瞬間なぜそんなでかい刀になってんの??え、マジック?この時代にもマジックが存在するの…?戦国時代ってなんでもありなの?
混乱している私を余所にそれを追うようにみんなは走り出すが流石。運動神経なんてないわたしは普通において行かれてしまった。待って、私は珊瑚ちゃんに貰った初草鞋で上手く走れんのだよ!靴擦れが!すごい!あとでかごめちゃんに絆創膏を貰おう。
痛い痛いと言いながらも彼らに追い付いた時にはあの虫に熊が纏わりつかれかけらを抜き取られていた。
「追いましょう。今度こそ奈落の城にたどりつけるかもしれん。」
話が見えない、よく分からないがあの虫を追い掛ければ奈落に会えるのか。正直あの虫には関わり合いたくない、既に虫の呪いを受けているからまた碌でもないことになりそうだもの。だが弥勒さんがそう言うと気持ちの悪い数の虫と一方的な追いかけっこが始まった。私はまた虫に囲まれてしまうのだろうか、頼むからそうでありませんようにと神さまにお祈りし先を走る犬夜叉たちの後を慌てて追いかけた。
← * →