私の中でたたりさんは死神ではないかという疑惑が浮上した。それもそのはずであの日、たたりさんが老いた狼を連れていってしまったのを見たからで、そのあとの生物委員会のメンバーにはビックリした。一年は鼻水を流して号泣して孫兵は静かに涙して、竹谷先輩は後輩を慰めみんなでお墓を立てていたのを見かけた。

悲しいか、そう聞かれて頷けなかったのはきっと私は対人や物に関して関心も執着もないからだと思う。だから、誰もいなくなった狼の墓の前で毅然としていた竹谷先輩が泣き崩れるのを見ても、何とも感じなかった。


ざくり、ざくり、と汗を流しながら蛸壺を堀続ける。
あの日からたたりさんには会っていない、初めて話をしたあの祠にでも行こうとしたけれどその途中居合わせた学園長に雑務を押し付けられそれをこなすのに半日かかり結局行けなくて、今だって行けれてない。多分、あの祠に行けばたたりさんに会えるような気がしてならないんだ。けれど私は何故、たたりさんに会いたいのか全く分からないのだ。
ぽたぽたと汗が土に落ちて染みをつくり、それを私が抉りとる。


つまらない。


切り取られた青い空を鳥が泳ぐ。中断した作業を再開させようと踏み鋤に力を入れれば切り取られた世界から悲鳴と物が落ちる音が聞こえ静かにほくそ笑んだ。






「だーいせーこー」

いつものポーカーフェイスで蛸壺を覗けば目を回している一年生と三年生。
目を回してる二人を引き上げるのは私ではちょっとキツい。まあ、いっか。きっと食満先輩とかが気付いて引き上げてくれるだろう。くるり、と踵を返して再び先程の蛸壺に飛び降り堀始める。
すると暫く経つと太陽に照らされていた筈の私の頭上に影が出来、それに顔を上げると綺麗に笑うたたりさんがしゃがんで此方を見ていた。


「相変わらず悪戯好きよの」

「たたりさんだ」

「わたしを呼んだか?」

「胸の中でなら」

「ほう。如何用か」

「…さあ」


こちらは蛸壺、向こうは地上。もしたたりさんの姿がみんな見えるのならきっとこの光景は異様なものだろう。
会いたかったたたりさんは小首を傾げ手を差し出してくる。


「…」

「安心しなしゃんせ、うぬは時ではない」


差し出された手を掴むのを躊躇していたからかたたりさんは鼻で笑ってそう言った。
多分連れてかれるって思ったのがバレたみたいだ。ゆっくりその手を取って地上に上がる。
泥だらけの私の装束を払い髪を解かしてくれ、その時ふわりと香った不思議な香りにくらりと目眩しそうになった。


「うぬはいつも泥だらけよな」

「蛸壺作るの楽しいから」

「楽しければよかろうな。」


髪を撫で付けるその手は頬の泥を拭い取りそのまま手を離してたたりさんはどこかに歩いていく。今日は消えることをしないからついてこい、とでもいっているのだろうか。どうしようか考えていたけど悩むのは私らしくないからなにも考えずにたたりさんの後をついて行くことにした。

たたりさんについて行った先にあったのはあの祠。その祠に供えられた饅頭一つを手に取って半分に割る。


「食え」


つき出された饅頭の片割れを受け取り、それを見たたたりさんは自分の手にある饅頭を一口食べた。



「……」

「如何した、食わぬのか」

「、」

「流石は忍のたまごよ、そう簡単には食わぬか」

「たたりさんって、死神なんですか?」


単刀直入過ぎたのか、ぴたりと固まるたたりさんにしまったと思った。

けれど固まったのも少しですぐに視線を外して饅頭を一口で平ら空を仰ぐ。



「さあな」

「?」

「うぬは探求心というものとはかけ離れておると思っておったが…人並みにはあるのだな」

「どうですかねえ、私はアナタだから気になるのです。」

「ほう、面白い小僧だの。」


一つ笑うと私の目線に合わせ少ししゃがんで目と目がかち合う。
綺麗な眸に整った顔立ち。くらりとする香りに思わず目をそらしたくなるほど。


「わたしを知りたくば平次に聞くがよい。」


するりとまた髪を撫でられ再びたたりさんは笑い、そこで私の記憶は途切れた。




(学園長が、)(何かを知っている?)(一体何故、)

その謎は深まるばかり