「やぁ、なまえ氏!今日も素敵だね!」

「しね」

「それも愛情表現なんだよね。知っているよ!」

「ちゃうわ!気付けボケカス!」

「分かってる、分かってるよ。とっくの昔になまえ氏は俺に惚れてるって事」

「ヘラクレスーっ!こいつの頭助けてあげてー!」


朝、いつものように学校に行けばいつものように下駄箱前に大和猛が爽やかな笑顔をこちらに寄越して手を振り待っていた。最初こそ驚きで毎日おどおどしてしまっていたが、こう毎度になると流石に引くものがある。何度もこういうのはやめてくれと言っては来たのだがやめない辺り、彼はきっと我が道をゆく空気が読めないKYと言う人種にあたるのだろう。そうでなければ毎日毎日こんな事はしないと思う。大和を無視して教室までの階段をかけ上るが奴は何故か三年の教室までピッタリくっついてきた。こいつは私に嫌がらせをしたいのだろうか、早く教室に帰れよ。と言うと「本当は寂しいんだよね、うん。分かってるよそんな強がりな君も素敵で俺の心をギュッと捕まれてしまうよ…」と延々こんな事を教室の前でされてしまう。ああ、もう他の生徒が本当引いてるよ。私と大和の周りを避けるように教室に向かう生徒を見て果てしなく羨ましかった。
キンコン、と予鈴がなったので小さくガッツポーズを作り大和と別れた。その時も「俺は今日も部活だから先に帰ってくれるかい?もしも時間に余裕があるなら部活が終わるまで待っててくれても構わない。むしろ待っていてくれないか!」と私の両手を握りしめて帰っていった。本当嵐みたいな奴に、はあ、と小さく溜め息をついて席につくと前の席のヘラクレスがこちらを向いてニマニマしていた。


「また熱烈猛アタックかいな」

「頼むであいつどうにかしてや」

「あいつなぁ…あんななったらもう止められんで」

「私もう無理やて…あいつの愛に答えてあげられる気力と根性あらへんわ」

「まあまあ、そのうちなまえも大和が好きになるんやないか?」

「うわー…ありえんわ」

「ありえん事はありえんのやでー」

「他人事だと楽しいよねー!」

「まあな!」

「はげてしまえ」


SHRから授業中ずっとこの話をしてこの日の学校生活は終わった。荷物を片付けて帰ろうと教室を出たらヘラクレスに呼び止められて何?と聞けば腕を引っ張られてそれに引き摺られる形で彼についていった。ついた先はアメフトのフィールド、のベンチ。いやいや。まさかね、優しい優しいヘラクレスがそんなまさか!若干冷や汗だらだらな私は彼に「まさかのまさかだよねー」なんて引きつり笑顔で話しかければ「いやー、まさかのまさかやなー」と豪快に笑った。


「なまえ氏!俺の事を見たくてヘラクレス氏に頼みこんでベンチで見学しに来たのかい!」

「一回あんたの脳内を解剖してみたいわ」

「心配しなくても俺の脳内は常に君の事で頭がいっぱいさ!」

「あかん。もう手遅れやったわ。」


私を見つけた時の大和のこの笑顔!めちゃくちゃキラキラしてて本当気持ち悪い。がっしり肩を掴まれたかと思えば抱き付かれ「やっぱりなまえ氏が好きだ!」と本当とんちんかんなタイミングで言ってきたのでとりあえずアッパーを食らわせておいた。