ある日、ヘラクレスがとても哀れみを込めた目で私を見てきた。別にほぼ毎日学年全員に哀れみの目で見られているので何とも思わないのだが流石にヘラクレスにそんな目で見られると本当私何かしたのかと不安になる。どうしたのかと聞けば「初めてお前が哀れに思えた」とか目頭を押さえて肩に手を置いた。
本当何なんだ。問い詰めてもひたすらドンマイ、としか言われなくてますます不安になる。すると一年のアメフト部の可愛らしい女の子、確か花梨ちゃんが教室の扉でコソコソしているのに気付いた。何してんのかな、と本当そんな事を思い花梨ちゃんの元に向かうと凄くあたふたしてダッシュで廊下を走って行ってしまった。持っていただろうデジカメをその場に落として。


「ヘラクレス、さっき花梨ちゃんが居ったで」

「ほんまか?何や用事やったんかいな」

「話し掛けよう思ったら逃げてまったわ」

「嫌われとるんちゃうかー?」

「やめてや!私花梨ちゃんに嫌われたらしょげるわ」

「何の用事やったんやろな」

「そういえばあの子デジカメ落としてったわ」

「デジカメ…?」


これや、とさっき花梨ちゃんが落として行ったデジカメを差し出すと目の前のヘラクレスの顔が少し青くなった。「中、見たか?」と深刻な顔でそう言われ見てないと答えれば安堵の溜め息をついて良かったわ、と呟いた。そんな事を言われると中が見たくなるのが人の性だ。彼がデジカメを手にする前にソレを自分の胸に引き寄せて操作を始める。するとヘラクレスが「あかん!見ん方がなまえのためや!」とか叫んでいたが華麗にスルーをして画面に出てきた画像を見て停止。


「ちょ、これなんや!」

「やから見ん方が良かったのになぁ…」

「花梨ちゃんがこんな写真…」

「ちゃうちゃう。それ大和のデジカメやで、って。あ、しまった…」

「大和がこんな事しとるの知っとったんか!」

「堪忍堪忍」

「大和おおぉお!」


今日こそしばいてやる!そう意気込んで大和の教室に殴り込みをしたら満面の笑顔が大和が両手を広げて私に突進してきた。もちろん教室にはたくさんの生徒がいて、その中にポツンと自席で本を読む鷹が目に入る。彼は読んでいた本から視線をこちらに上げると滅多に見られない小さな小さな笑みを投げてよこしてきた。



(大和!これはなんや!)(それはなまえ氏メモリアルだよ)(花梨ちゃんに可哀想な事させんなぁああぁあ!!)