「なまえ氏ーっ」
「あーはいはい」
「はぁ、なまえ氏の匂いが…」
「爆発して木っ端微塵になれ癖毛」
「そんななまえ氏が好きだよ」
「頬染めないでもらえませんかー」
珍しい事にあの大和が朝、アメフトの練習中に足を捻ってしまい放課後の部活動を見学する羽目になってしまったらしい。どうしたの、と大和らしくないじゃないかと声を掛ければなまえ氏の愛が足らないんだ!と、ほざいてきた。何で今私が大和と一緒に居るかと言うとヘラクレスとハゲに強制連行されたからで理由は大和のお守りらしい。見学なら寮に帰してやれよ、ほら、大和めちゃくちゃやりたそうな顔して練習見てんじゃん。可哀想じゃん…
「大和、やりたいん?」
「うん」
「ってこらこらこら!何フィールドに入ろうとしとんねん!」
「フィールドが俺を呼んで、ボールが俺を求めてるんだ」
「んなわけあるか!」
「なまえ氏、頼む行かせてくれ」
「あとで怒られるん私なんやけど分かっとんの?」
とりあえずベンチに座らせてそこからあまり動かないように見張ってみる。みんなのアメフトやってる姿を見てはソワソワしたり握り拳作って「俺なら今の所を、」とぶつくさ言っている。そんな大和を見て心底アメフト好きなんだな、って思わせられる。アメフトやってる姿は誰よりもカッコいいのにな。勿体ない奴だな。小さくため息をついてそのまま練習を二人で眺めていると時間になったのかメンバーが挨拶して各々のロッカールームに姿を消していった。
大和は鷹と帰るらしく出てくるまで此処で待つ、と言い出した。いやいやいや、此処ベンチだよ?此処にはわざわざ戻って来ないだろ。せめて校門で待とうよ、そう苦笑いで答えれば少し悩んで一人納得して校門で待つ、と鷹にメールを送り私を杖代わりにして校門まで歩いていった。ところでなんで私杖代わりなんだ?
「鷹遅いね」
「そうかな?」
「着替えってそんな時間かかるん?」
「人それぞれだと思うよ。あ、ヘラクレス氏だ」
「ヘラクレスは早いんやな」
「お、なまえやん。どないしたんや、大和と帰んのか?」
「いやいやまさかー」
「今は鷹を待ってるところさ!それから三人で帰るんだよ」
「ヘラクレス、バトンタッチ。私には荷が重すぎるわ」
「バトンタッチ返し!俺は今から帰って寝るっちゅう仕事があんねん」
「それ仕事ちゃうやろ!勉強しろ!んで課題明日見せて!」
「みょうじ氏、課題は自分の力でやるものだよ」
「あんたのお守りしとったんや、正当な報酬やろ!」
ずっと大和といたせいかかなりの体力が消耗した。ほら、もう息切れしてるよ…暫く三人で話してヘラクレスが腹減ったで帰るわ、とか言ってまた再び二人になってしまい、辛い。横では大和が手を繋ぎたいらしくひたすら私に話しかけてくる。もちろん単刀直入に「手を繋がせてもらいたいな」と。その要求に「この前したで無理。」と答えると口をつむって暫く大人しくなった。そして少ししたらまた手を繋ごう、と言ってきた。それに断って、の繰り返しを延々としていた。のだが、
「手を繋いでくれないと食べちゃうぞ」
爽やかな笑顔でそうほざき私に手を差しのべる。先程のあの発言が無かったら本当王子さまみたいで少しは好感度アップしたのに…
さあ、と手を差しのべる大和の手を嫌々取ると凄く嬉しそうに笑いながら静かになった。暫くしたら鷹が花梨ちゃんとのんびり楽しそうに話しながら歩いて出てきたのを見て「嗚呼、あの雰囲気羨ましい…」と遠い目で二人を見ていた私だった。
(…何で大和となまえ先輩手繋いでるの)(や、やっぱりあの噂はほんまやったんですか!)(色々あったんや…てか噂?)(ああ!俺となまえ氏が付き合ってるってやつね)(噂広めたん誰や!)