体育をやっている時腹部に激痛が走った。女子特有の痛みにその場にしゃがみこんでしまった。その私の姿にクラスの子たちがこぞって私のもとに駆け付けてくれた。そんなクラスメイトの姿に若干涙が込み上げるが今は痛みの方が勝ってそっちの方で涙がでる。つい今日がその日だと言うのを忘れて持って来なければならない物を普通にお家に忘れてきてしまって絶望感に浸る。
あちゃー、と頭に手を置いてとりあえず保健室に行こうと立ち上がろうとするがこの痛さだ。立ち上がる事すら出来ない。どうしたものか、悩んでいたら流石ヘラクレスだと思う。隣のグラウンドでサッカーをしていた彼がヒョイ、と軽々私の体を横抱きにして「今保健室連れてったるで辛抱し」と人だかりを避けて保健室まで連れてってくれた。


「ありがとさん…」

「なんやごっつ死にそうな声しとるやないか」

「あかん、死にそうや…」

「女っちゅーのは大変やなぁ。そないな事で死んだら世話あらへんで!」


ガハハハ、と豪快に笑う彼に保健室まで運んでもらいベッドに寝かされる。そしてヘラクレスは保健室の先生に事情を話して授業に戻って行った。
保健室の先生が大変だったね、と優しく声を掛けてナプキンと一緒に暖かいココアを出してくれた。一言お礼を言ってトイレに駆け込み、そして痛み止の薬を飲んだ。先生がベッドを貸してくれたのでそのまま睡魔に呼ばれて夢の中に意識を飛ばす。


***


一体どれ程経っただろうか。自然と目が覚める感覚がする。その感覚に合わせて目を開けるとあの大和がパイプ椅子に座っていた。なんでいるんだ、とか一瞬過った。大和?と声をかけてみるが彼は寝ているらしく椅子に座りながらスヤスヤ寝息を立てていた。黙ってれば本当カッコいいし様になるのに…残念な奴、ジッと大和を見ているとある事に気付き大和の顔に手を近付けて触れてみる。


「起きてんだろ」

「………」

「起きたらチューしてあげようかな」

「おはよう、なまえ氏!」

「はいチュー!」

「ちょ、待ってイタタタタタ!」


狸寝入りしていた大和に拳骨チューをおみまいして何で此処に居るか聞けばクラスメイトに私が腹痛で保健室に運ばれたと聞いたからだと眉を下げてオロオロしている彼にそうなんだ、と答えるとそろりと手を握られ口をつぐむ。
今日の大和は様子がおかしい。私と目が合えば焦ったようにすまない!とまた口をつぐむ。何かあったのだろうか。
少し心配になったがたまにはこんな大和もアリなんじゃないかな、と思いそのままスルーする事にした。が、思った以上にこの大和は気持ちが悪い事に気付いてしまった。いつもなら私の名前を理由もなくひたすら呼ぶくせに今日はそれがないのだ。そのせいか何だかこちらもペースが崩れてしまい、何が大和をこんなにしたのだろうか。


「大和、」

「うん」

「なんか話してや」

「え、あ、うん。」

「大和」

「う、ん。」


あんたどうしたんや。いつも通りの会話を待っているのにやってくるのは会話も続かない返事のみ。
椅子に座る大和の近くに寄って頬を両手で掴んで目を合わさせる。


「私、KY過ぎる大和の方が好きやわ」


大和の目を見つめてそう言うと目の前のそいつはみるみるうちに満面の笑みになり飛び付いてきた。あまりの突然な事に驚いてそのままベッドに大和共々倒れ込んだ。ベッドと言えど保健室のは意外と痛いというのを知る。あほ、と殴ってみるとギュッ、と腹部に巻き付かれてそのまま停止してしまった。どうしたの、頭を撫でてみると少しだけ動いて再び抱きつく力が強くなった。別に痛くはないが今の私の体の状況から考えるとかなりこの状態は辛い。


「なまえ氏」

「なに?」

「体、大丈夫かい?」

「なんで?」

「あ、あれ…なんだろ?」

「あれ?」

「女の子の日」

「え、ああ。うん」

「辛いのに無理させられないからさ」

「そんなこと」


私に気遣ってのこの大和の大人しさだったのか。尚更気持ち悪い。大和の顔を再びこちらに向けさせビニョンと頬をつまんで変な顔だと笑ってやれば大和も「やっと笑った」と安心したように笑った。




(なまえ氏はやっぱり笑ってた方が可愛いよ)(そりゃどうも)(いつものなまえ氏に戻ったんだね)(私はいつでもこうやわ)(つれないなまえ氏も俺はすきだな)(やっぱり大人しいのが良かったかも)