辛くない。小さい時からいじめられっ子だった私は面と向かって罵声や非難を浴びせられたってそんなの今じゃ慣れっこになってしまった。これはとても悲しい事だがもう自分に定着してしまったのだ。だが好きな人にこそ非難されると流石に凹む。
「もう本当やんなる」
学校の帰り道石を蹴りながら家路についていた。空はオレンジに色付いていて、遊んでいたであろう子供たちは家へと楽しそうに帰っていく。「今日の夕飯なんだろう!」とか「カレーがいい」とか、家に親が居るなんて羨ましい。留学生の私は親は勿論母国日本でのんびり暮らしている。この前寂しくなって両親に電話かけたら「目の青い彼は出来たの?」と最初に聞かれた時は溜め息が出た。まず娘の安否を確認してほしかった。と口には出さず適当に流した。今日は夕飯何にしよう…自炊だなんて本当しんどい。アメリカに来て親の有り難みが分かるなんて。再び溜め息をついた時誰かが肩をトン、と軽く叩いてきた。
「なまえちゃん!」
「あ、ハリウッド」
「違う違う!バッド・ウォーカー様だって」
「ウォーカー何か用?」
「一緒に帰ろ」
「あ、今日の夕飯何にしようかなぁ!」
「何なになまえちゃんは俺に夕飯作ってくれるの?」
「都合の良い耳って本当羨ましいよ」
「俺の耳がかっこいいって?」
「あーかっこいいかっこいい。」
「じゃあ俺と付き合おうか」
「…えーーー」
つれないね、と投げキスしてきたウォーカーを無視して足を早める。ドン、お決まりのシーンだ。早く帰りたい一心だった私が悪いのだが、運悪く人とぶつかったのだ。
「すみません」軽く謝りその場を離れようとするけれど腕をがっちり掴まれてしまいミシミシと腕が悲鳴をあげる。離してくれと顔を上げるとそこにはクリフォード。スポーツをしているだけあって流石だ。こんなに骨をミシミシ握れる奴なんか女子プロレスラー目指してるジェレミーくらいだと思っていた。あ、その顔もかっこいい。
「あ、クリフォード」
ウォーカーのその言葉にハッとする。何故私の腕がこうも力一杯掴まれているのかは分からないが骨がそろそろ限界だ、と泣きはじめ離してほしいと腕を揺らしてみるが彼にしてみればどうでも良いことなのだろう。涼しい顔してウォーカーを見ていた。
「クリフォード、手離してあげたら?」
「フン」
「いった…」
「大丈夫?」
「もー帰るー」
「言葉のキャッチボールが出来てないぞー」
うるさい、私は今ので完全に気持ちがどん底に落ちたのだ。軽くだがぶつかったのに対して謝ったのになんでこんなに(地味に)痛い思いをしなければならないんだ。お昼のクリフォードのあのキモい発言でショックを受けてるのになんて事。好きって気持ちがある分どん底に落ちるのは容易い。「ばいばい」と手を小さく振って二人を残して走って家に向かった。