ああもうやってしまった。
今更後悔したって遅いのだが目の前の散らばった紙吹雪にも似たプリント用紙にとてつもなく涙が出そうになった。
今日は散々な一日だと感じる。朝寝坊はするし定期券とお昼ご飯忘れるし授業中隣の人が昼寝してたのに間違えられて注意されるし挙げ句、その先生に山の様なプリントを職員室まで運ぶよう言われてそして階段で転んでぶちまかす。
これ程までに不運なのは生まれてこのかた初めてでそりゃもう落胆する他ない。放課後なだけに人は居なくて無様な姿を見られなくて良かったと思う反面プリントをかき集めるのが大変だから人手が欲しいなと思いながらもため息混じりにも手を動かすと背中から声を掛けられる。


「あー。みょうじ先輩じゃないっすか、何してんすか」

「棘田!良いところに来たね!プリントかき集めてるから手伝って!そのついでに一緒に職員室まで運んでよ」

「めんどいんで俺帰ります」

「ちょ、待って待って待って!」

「いたたたた!髪引っ張んな!!!!」

「ほらか弱い女の子が困ってんだから」

「え?誰の事っすか?」

「私!私のことだよ!」

「あーもう。はいはい。手伝います手伝いますー手伝えば良いんだろ!」


しゃーねえな、とブツブツ言いながらも棘田はしゃがみこみシャカシャカとプリントをかき集めて私に「ほらよ、今度は気を付けろよ」と笑って渡して、走って行った。ありがとうとお礼を言おうとしてたのに行ってしまった。
少し夕暮れかかる廊下に残され、いびつに積まれたプリントを崩さないように抱え直し気付いた。ハッとした時には棘田は遠く、職員室まで手伝えよ!と叫ぶと棘田がメンドー!と叫んで去って行った。折角見付けた人手を逃がしてしまいとことんついてないなとか肩を落として渡されたプリントを見つめる。


「いや、見たらダメだ。見たら余計惨めになるんだから」


顔を横にブンブン振って職員室までの残りの道のりを進もうと足を進める。
この先を曲がれば職員室だー!やったー!ミッションクリアだー!と内心喜んでいたのもつかの間。曲がり角のお約束にもう涙がだらだら出てしまいそうになる。お約束と言えば人とぶつかる、私には大量のプリント。どうなるかは明らかで本日二度目の出来事に欝になるんじゃないかと思ってしまった。
どうせぶつかった人は手伝ってくんないんだろうな、と内心ぶつくさ言いながら相手に謝りプリントを拾い出した。


「…はい。」

「え?」


急に何かを差しだされ見れば遠くに落ちたプリントの束。わざわざ拾ってくれたのかと思うと憔悴していた私になんとも言えない感情が沸き起こってしまう。ありがとうございます、そう言うと「うん」と言って去って行った。




澄んだ声に、(いや何か存在にも)(心ときめいた)
これは所謂、一目惚れ?