三千世界をも越えて


才能や天才という詞が嫌いだ。
全ての能力は多かれ少なかれ須らく努力の上で成り立っている。だから、下らない僻みや嫉みを口にする時間があるならば其の人に勝る努力をすればいいのに、と常から思っていた。はて、この思考を鼻で笑ったのは果たして誰だったか。

「だぁれだ」
「……太宰殿」

不意に視界が曇ったかと思えば耳元で囁く軽薄な声音。こんな幼稚なことをする人物も、緊張感の無い声音も一人しか記憶にない。

「ふふ、あたり。ご褒美にジャーキーでもあげようか?」
「結構です」