でんげきむち
ゆるゆるとなだらかな曲線に手を這わせると、面白いように筋肉が緊張した。それを気付かれていないと思っているわけでもないだろうに、明らかな意思を持って動いている手を完全に無視しているところを見ると、この先を期待しているのか──とも考えるが、残念ながらそうではないことを孫策はちゃんと知っている。証拠に、玉兎を背中から抱き締めている孫策の手が彼女の内股へ滑り込もうとした時、もう我慢出来ないとでも言わんばかりに脇腹を正確に狙った肘が飛んできたが、彼は易々と手の平で受け止めてみせた。
「たまには大人しく愛でられようとは思わないのか?」
喉の奥でくつくつと笑い、受け止めた肘を厭らしく撫でながら玉兎の耳に囁くと、瞬く間にカッカと熱を持つのが分かる。耳が弱いことを知っていてやっている孫策を玉兎は知っている。ゆえに玉兎の怒りのボルテージは上がるばかりだった。
「お戯れもいい加減になさってください⋯⋯!!」
肘を撫で回す手を手で叩き落とし、玉兎は孫策の腕の拘束から逃れようと体を捩ったり捻ったりと無駄な抵抗を試みる。結局いつもと同じように流されるのだろうと解っていても抵抗せずにはいられない。
何故なら──。
「相変わらず睦まじいな」
「良きことよ。放って置いて差し上げろ」
「しかし、まっこと殿に瓜二つだな」
「目頭が熱くなるわ⋯⋯」
そう、ここには人目がある。若殿様の戯れもある程度許される酒の席である⋯⋯が、前後不覚なほど酔っている者や潰れている者はまだちらほらとしかおらず、楽しげな笑い声があちこちで上がっている。
ちなみに低く囁き合ったのは四騎衆で、孫堅はそれすら聞こえぬ振りで杯を傾けている。他の者もいつものことと孫策と玉兎をまるっきり無視している。主の公開セクハラより酒瓶のほうが恋しいのは当然だった。酒席での乳繰り合いは先代からの恒例行事なので、周囲にとっては本当にいつものこと過ぎてもはや肴にもならないのである。
そのうち孫策が玉兎を連れて──連れ去って──引き上げるので、それでお開きというのが長沙の酒宴のお決まりのパターンだった。
「夫に手を上げようとするとは悪い女だ。これは仕置いてやらんといかんな」
「あなたがこんなところではしたないことをしようとするからでしょう!」
「口答えまでするとは何たる奴だ」
「ちょっと──ゃ、⋯⋯っ、しゅ、周瑜! 助けて!」
「ん? おい──」
呼ばれた彼は視線を上げ、
「いまの琴、音が間違ってたぞ」
素知らぬ顔でそんなことを言っている。周瑜の耳を周りが囃し立て、玉兎の声はあっさり無視された。
「ちょっと、周瑜ってば⋯⋯!」
「お前、いい度胸だな。俺の腕の中にいながら他の侠の名を連呼するとは」
「ちがっ、だ、だって⋯⋯!」
「望み通りたっぷり仕置いてやろう。わざと俺を煽って、期待しているのだろう?」
──とまあ、こんな感じで玉兎は孫策に抱えられ、酒席から姿を消す。
長沙は今日もまこと平和である。
攻撃力42