長沙に招いた劉備たちが発つことになった。いつまでも世話になるわけにはいかないと劉備が暇を告げたのだが、出立する彼らを最後まで引き止めたのは玉兎だった。肩を落としてうつむきながら、掴んだ劉備の手を離そうとしない。

「どうしても行ってしまわれるのですか?」

 悲しげに言う彼女に劉備は少々心苦しくなりながらも、首を振った。

「ああ──俺はまだまだ未熟だ。それに黄巾賊を倒したからと言って俺の旅は終わったわけじゃない。もっと外の世界を見て学ばないといけないことが山程あるんだ。すまない⋯⋯」

 そっと手に手を、そして言葉を重ねられ、玉兎はようやく諦めたようだった。

「そうですか⋯⋯。分かりました⋯⋯残念ですが⋯⋯。劉備さま、関羽さま、張飛さま⋯⋯どうかお元気で」






 遠くなる劉備たちの背中を名残惜しく見つめる彼女に、孫策の刺々しい声がかかった。

「随分と残念そうだな」
「それはもちろん⋯⋯。あれほどの殿方たちなのです。孫堅さまのお力になっていただければ、この長沙はより平和な国になりましょうに⋯⋯」

 まるっきり臣下としての言葉であり、それ以上の感情は微塵も含まれていなかったものの、むっつり黙り込んだ孫策を見て周瑜が耳打ちした。

「玉兎、あまり妬かせるな」
「でたらめを言うな、周瑜。誰が妬くか」

 睨めつけてくる孫策に、周瑜はしれっとした顔で視線を逸らす。

「おかしなお方。わたしはタマウサギですのに」

 言いながら、玉兎は動揺とはにかみが半々の微笑を見せた。頬が薄く色づいている。
 孫策もその様子を見てあっさり機嫌を直したらしい。

「妬いてなどいないと言っているだろう。そもそもそんな必要もない、お前は俺のものなのだからな」

 ぐいと細腰を掴み寄せてその耳に囁けば、玉兎は見る間に項まで赤くなった。相変わらず愛らしい反応をしてくれる。いつまで経っても初心で、しかもこうしてこちらの言葉にいちいち歓んでくれる女が可愛くないわけがない。
 孫策は抱いた腰はそのままに歩き出した。もちろん城へ──自分の寝所へ向かってだ。玉兎はただ城内へ戻るだけだと思っているのだろう、黙って従っている。周瑜はそんな彼女を見て、次に顔を合わせるのはさて何日後だろうかと考えるのだった。


攻撃力82


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