ディセプティコンの体を砕くことは容易だ。しかしその心を折ることはなかなかに難しい。
 彼らは議論の余地もないほどにつまらぬものを尊いと頑なに信じている。盲目的に、自由だとか平和だとか、反吐が出るほど無価値なものを。どれだけ痛めつけても、虚構ばかりで作り上げられた信念にしがみついて、手離そうとしない。
 彼女もそうだった。痛めつけ、犯し、どれだけ屈伏させようとしても、その目に灯るものは長いこと消えなかった。
 しかしオプティマスは、細心の注意を払って彼女を愛した。彼女が“彼女”のままで、オプティマス・プライムへ傾倒するように。
 傷付け、甘やかして。時には瀕死にまで追いやりながらも、その命の灯火が消えるようなことは決してせず、愛した。
 彼女は少しずつ壊れた。かつてのセイバートロンの空と同じく輝く青だった目は濁った。くすんだ青鈍はやがて、黄昏の紫へ。そしていずれは、自分と同じ、焔の赤へと落ち着くのだろう──おそらくは、そう遠くない日に。





 オプティマスは、愉悦の足取りをもって、鳥かごを模した檻の中へ入った。首と四肢、翼に枷を嵌め、鎖に繋がれた彼女の前へ立つと、その細い肩を抱いてしっかりと立たせる。
 愚図るように体を揺らして素直に従うことはなかったが、抵抗らしい抵抗も最早ない。長い時間をかけて躾たのだ、抗えば抗うほど痛い目を見るといい加減に学んでいる。
 オプティマスは彼女の頭のてっぺんからつま先まで、じっくりと吟味した。肩に手をかけ、労るように曲線を撫でる。そして、手始めに翼を一気にもぎ取った。

「、ぎっ、ぃ、ァアアア──!」

 彼女が大人しくしてさえいれば、オプティマスはそう酷いことはしなかった。けれどそれは、接続行為そのものが彼女に苦痛を齎していたからだ。しかし最近は、従順とは言い切れずとも暴れ回ることもなく。矜持を折られる痛みさえ感じているのか疑問なほどによく啼いた。
 それはそれでオプティマスを満たしたが、駄目なのだ。
 それでは、意味がない。

「ァア、あっ、う、あアぁ⋯⋯」
「痛いか? 可哀想にな」

 凶行に混乱し、怯え、彼女は震えた。逃げようとする体を引き戻し、次は脚を。
 真紅の絶叫が迸り、オプティマスは優美な旋律を聞くような心持ちでそれを聞いた。

「可哀想に」

 詰り、嘲笑うそれではない。真に憐憫の色を帯びた声でオプティマスは呟く。

「君はちっとも理解していない」

 そっと頬を撫でてやり、あやすように口付けた。ありったけの愛しさを込めて。
 溢れるほどに夥しい愛が彼女の中で熟してゆく。水鏡に似て、揺れる愛がその目にあった。
 オプティマスは、自分でも信じがたいことに、優しく触れてやれたならとさえ思った。

「可哀想に⋯⋯」

 甘美なだけでは薄れてしまう。それは苦痛があって初めて残るのだ。爪痕のようにして。




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