「降りてくれ」
 町外れの廃病院まで来て、オプティマスは辺りに生命反応がないことを確認してから促した。
 少女は言われるまま、開けてやったドアからそろりと外に出る。降りた途端に逃走するかとも思ったが、彼女は傍らでじっとしていた。
 見上げてくる実写に、オプティマスは少しバックして距離を取る。
「⋯⋯あなた⋯⋯何なの?」
 わりに落ち着いている彼女の質問には答えず、オプティマスは畳んだ羽を広げるように悠々とトランスフォームした。
 高くなっていく全体像にあわせて、実写の視線も自然と持ち上がっていく。驚いて後退った彼女が今度こそ逃げ出す前に、二足歩行の形態となって膝を着いた。
「怖がらないでほしい。さっきも言ったように、私は決して君に危害を加えたりしない」
 身を屈ませて何度目かの宣言をする。スキャンすれば、一過性のショックを見せてはいたが、すぐに落ち着きを取り戻していった。感覚が麻痺したのか、慣れたのか。よくは分からないが萎縮されるよりはいい。
「何、と訊いたな。私は、独立した認知能力を持つ機械存在で、とても遠い惑星から来た」
 実写は瞬きして、ぎこちなく首を傾げる。
「難解か?」
「んと⋯⋯エイリアン? てことは、分かった」
 理解が及ばないらしい。どう説明すればいいのか。
「金属生命体、だ。擬態能力を持ち、見ての通り、変形することが出来る。我々は⋯⋯そうだな、“トランスフォーマー”という表現が君に一番理解しやすいだろうか」
「⋯⋯。⋯⋯なんとなく、分かった」
 実写のその言葉で、それ以上の説明は諦めた。申し訳なさそうに視線をさまよわせた彼女に構わず、オプティマスは本題に入ることにする。
「とにかく、まずは私の話を聞いてほしい」
 実写は見下ろしてくる巨大なロボットに目を戻す。この状況で、拒否をさせるつもりなど最初からないだろうに。
 それでも黙って返事を待つ彼は礼儀正しい。まあ、有無を言わせぬ雰囲気ではあるが。
「⋯⋯わかりました⋯⋯」
 了承に、青の燐光がほんの少し緩んだように見えた。
 オプティマスは素直に首を縦に振った彼女に感謝して、一つ頷く。どこから話すべきか。
 少し考え、やはりこの戦争の起源からであろうと結論した。
「我々の故郷の星⋯⋯君たちが呼ぶならセイバートロン星というのが適切だろう。そこには、かつて──」




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