目が覚めたのは、布団もかけずに寝ていたせいで肌寒かったからだろうか。
 部屋の中には何の音もない。なんとなく不安になって、枕元の携帯を引き寄せた。時計を確認する。あまり時間は経っていなかったが、部屋に入ったのが遅かったのでもう真っ暗だった。
 まだ休んでいたいはずなのに、妙に眠気がなくなってしまった。無意味にごろごろ寝返りを打つが、収まりのいい場所も見つからない。
 ──オプティマスも、眠っているのだろうか。
 無意識に、彼がいるはずのドアの向こうへ視線をやった。それから少し考え、実写は起き上がる。手早く荷物をまとめて、部屋を出た。



「⋯⋯どうしたのだ?」
「なんだか、眠れなくて」
 あっさりチェックアウトして、実写はオプティマスのもとへ戻ってきていた。眠っていたら迷惑だろうとも思ったが、幸いなことにオプティマスは覚醒していて、快く中へ招き入れてくれた。
「オプティマスも寝てなかったんだね」
「警戒を怠るわけにはいかない。休眠も今しばらくは必要ない」
「⋯⋯そっか」
 助手席に収まり、丸くなる。自分は休まずにいたなんて、申し訳なさばかりが募った。
「⋯⋯⋯⋯君はもう少し休息をとったほうがいい」
「ううん、大丈夫⋯⋯行こう」
 ちゃんとしたベッドで眠れないならどこにいたって同じだ。それなら、此処がいいと思った。
 此処は温かい。怖いものを遠ざけてくれるような安心感がある。不安や、恐れや、不吉な考えや、背筋を冷やすものを。
 甘えていてはいけないと分かっている。そこまで背負い込ませてはいけない。まだ信じられないが、戦いが迫っているというのなら、なおさらに。
 オプティマスは考えるように少し沈黙した後、静かに走り出した。暗いフロントガラスに、実写は昼間に見せてもらった不思議なシンボルを思い出す。思い出したいことは、近付こうとすればするほど、遠くなるような気がした。あるいは、近付こうとしているつもりで離れていっているのか。

 もしも⋯⋯。
 もしも、全てが終わっても記憶が取り戻せなかったら?
 わたしは一体誰で、どうして、どこから?
 そもそも、オートボットが勝つという保証もないのに?
 果てなく続いてきたという戦争に、いまさら“終わり”があるなどとどうして言えるのか?

 漠然とした不安が、不意に輪郭を持って、こちらを見つめているのを実写は感じた。
 胸の内側を蠢くものがとても恐ろしい。考えても仕方のないことだと分かっているのに。
 ぐるぐると同じ場所を巡り──気付けば、身を包む優しい気配に、浅い眠りに落ちていた。




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