(──死ぬな、)

 同じ言葉を聞いたことがある。いつだったかは覚えていない。
 視界が白み、身体がすぅ、と軽くなる何ともいえない心地よい感覚。このまま眠ってしまえたら。
 呼び覚ます声は煩わしいとすら思った。ゆっくりと拡散していく微かな意識を繋ぎ止める声はまるで枷のようだ。
 引き寄せられれば途端に鉛のように全身が重くなる。空気さえ質量を持っているかのようで、肺から押し出し、また吸い込むのに苦労した。
 呼び覚ます声。それははたして誰の声だったか。



「────」
 実写は唐突に覚醒した。
 ゆらゆらと現実味のないおぼろげな感覚で、それでも自分が目覚めたことを確信していた。
 置かれた状況をすぐに理解できず、何も分からないまま、言うことを聞かない身体を反射的にのたのたと動かす。重力に囚われた背中がひどく重い。
 呼吸さえ億劫な今の実写には、仰向けの状態から横を向くことすら一苦労だった。
 動くたびに、軽やかな衣擦れの音がすることに気付いた。それから、湿っぽい空気の臭い。一つ一つ、五感が戻ってくる。瞼を開ければ、爆発的な光に眼が痛んだ。比喩でなく、光が突き刺さってくる。
 明るい。
 思わず呻き、逃れようと俯いた。
 どうなっているのだろう。何が、あったのか。
 ──オプティマス。
「、ぁ⋯⋯っ⋯⋯」
 出し方を忘れたように、声が出なかった。
 空気が僅かに震える。急激な覚醒にいまだ朦朧とした意識の中で、必死になって呼ぼうとする。
 どこに、いるの。
「⋯⋯ ぃ、⋯⋯っ」
 オプティマス。




表紙 トップ