格納庫への通路を辿りながら、ラチェットは物憂げなオプティマスへ声をかけた。
「オプティマス。私は、偶発的な事故かなにかの結果、人間がオールスパークのエネルギー波を発するようになったのではないかと考えるのだが」
「⋯⋯そうかもしれない。だが、そうでないかもしれない。ディセプティコンの罠かもしれないし、アークの齎した情報自体が間違っている可能性もある」
「メンテナンスと動作のチェックは常にやってますよ」
 むっとして言い返したラチェットだったが、すぐに旧友を案ずる表情になった。
 飄々とした彼にしては珍しくはっきりとしたそれに、オプティマスは苦笑に近いものを浮かべる。ラチェットには何でもお見通しらしい。
「オプティマス。あの人間がエネルギー波を発している限り、必ず私たちの争いに巻き込まれることになるだろう。だが、どうかあまり気に病まないでほしい。これは誰も予想し得なかったことだ」
「ラチェットの言う通りだ。少なくとも、今の今まで、俺たちには──いや、ディセプティコンの奴らも、きっとプライムたちだって、それこそ本当に誰にも想像すらできなかった」
 オプティマスは二人のその言葉に慰められながらも、しかし素直に受け入れようとはしなかった。
「分かっている。だが、予想しなかった、というのは言い訳にしかならないだろう」
「しかし」
「ラチェット、アイアンハイド。大丈夫だ」
 強く頷いたオプティマスに、二人は口を噤んだ。話しているうちに格納庫の扉に着いた彼らは、数瞬だけ視線を交わした。最初に逸らしたのはオプティマスだった。
「⋯⋯あなただけにしか背負えぬものが多々あるのは十分承知だが、それでも、あなたの負う責任の一部は私たちも負っている」
「⋯⋯ああ、分かっている」
 一人で抱え込むな、と暗に言うラチェットに、オプティマスは内部システムをトランジッションモードへ切り替えながら頷いた。分かっていないから言っているのに、とラチェットは諦めたように首を横に振る。
「気をつけてな。慎重にいけよ」
 言いながら、アイアンハイドがちょっと恨めしそうにオプティマスの腕を小突く。彼はやはり頷くだけでそれに応えた。
「おーっと。待てよ、オプティマス」
 扉を開け、宇宙空間へ飛び出そうとしたとき、ジャズがいつもの身軽さで現れた。先ほどの機嫌の悪さをまだ少し引きずってはいるが、その声は沈んだ三人を元気付けるように明るい。
「ほら、こいつが出来る限りの情報だ。役に立つといいけど⋯⋯気をつけてな」
 オプティマスはジャズにも同じように頷いて、彼から送られてきた情報をざっと確認した。先ほどよりは多少細かいそれが役に立つかどうかは分からないが、ないよりはマシだろう。
「すまないな。ありがとう」
 オプティマスは礼を言い、今度こそ床を蹴ってアークを離れる。
「くれぐれも用心してくれ」
 ラチェットの言葉を受け取ってから、オプティマスはトランスフォームを開始した。情報を元に着陸軌道を綿密に計算し、外部システムも含めてトランジッションモードへと完全に切り替える。船から十分に距離を取ったところで軌道の最終チェックを行い、推進システムを作動させる。
「お前たちも気を付けてくれ」
 格納庫の扉からじっと見送ってくる三人にオプティマスは最後の通信を入れ、尾を引く彗星となってアークから遠ざかっていった。




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