オプティマスの存在に気を取られていた二体は、実写の行動に気付かなかった。“堕落せし者”の苦痛の叫びが弾け、メガトロンはそこでようやく虫ケラの抵抗に気付いたものの、時すでに遅かった。
 オプティックに弾丸を受けた“堕落せし者”は、憤怒の形相で手の平から投げ出したものに視線をやったが、近付いた轟音に目を戻した。オプティマスだ。最後の障害だ。邪魔をさせてなどなるものか。長い長い時間を待ち侘び、ついに訪れたこの瞬間を!!

 怒りに満ちた三つの咆哮は急速に接近し、激しくぶつかり合った。
 “堕落せし者”が巻き上げた岩石の嵐に構わず猛然とピラミッドの頂きへ突っ込んだオプティマスは、食い止めようと飛びかかってきた二体をそのままに力ずくで尖塔の頂上を貫いた。しがみついてくる手を急旋回して振り払い、実写を胸元に受け止める。

「実写、早く!!」

 もつれ合いながら近くの遺跡へ落下していくさなかに叫んだオプティマスに“堕落せし者”は一瞬だが、確かに動きを止めて相手の出方を窺った。至高の力を取り込んだ虫ケラが、次にどういう行動を取るか予測がつかなかったのだ。
 しかし実写はオプティマスの言葉が終わる前に、彼の中へと身を隠し終えていた。

 遺跡の底に叩きつけられた“堕落せし者”は、すさまじい力で押さえつけてくるオプティマスの腕を掴んで投げ飛ばし、素早く立ち上がった。負傷し、驚き、オプティマスを睨みつけると、謎めいた武器をかまえて怒りの声を発する。

「死ね! お前の兄弟たちのように!」

 オプティマスの怒りは“堕落せし者”のそれをはるかに上回っていた。天をも貫く怒りだ。

「お前の兄弟でもあっただろう!!」

 吼え、掴みかかっていく。
 メガトロンはひそかにオプティマスの背後から近付き加勢に入ったものの、簡単に腕をねじ切られ、強力な砲撃にまるで枯れ葉のように吹き飛ばされた。誰もついていけないほどめまぐるしい動きで、オプティマスはあらゆる武器を使い、“堕落せし者”の攻撃を弾き返し、そのスパークを狙う。

「この星を選んだのが間違いだ!」

 咆哮したオプティマスに武器を奪われ、“堕落せし者”はついに胸を刺し貫かれた。負けを悟ってワームホール・ポートを開く。脱出しなくてはならない。この猛攻撃から逃げなくてはならない。マトリクスの強烈な光から離れなくてはならない。しかし今日ばかりは簡単に逃げられなかった。

「その顔を剥いでやる!!」

 “堕落せし者”は貫かれたまま振り回された。暴力的な指先に顔の表面装甲が引き剥がされ、悲鳴を上げる。

「メガトロン、助けろ!」

 絶叫に、しかしメガトロンは動かなかった。マスターはかつての影響力を失い、それに気付いていなかった。いまのオプティマスはもはや誰にもとめられないことも。
 メガトロンはすでに、戦うのは次の機会でいいと割り切っていた。オートボットを殲滅するのはまたいつかでいい。今回の作戦はすでに終わったのだ。そして⋯⋯オールスパークはまたもこの手から最も遠い場所へ逃げおおせた。いまや二つの力に護られたその比類なきエネルギーは、奪うどころか引き出すことさえできない。

 ──少なくとも、今のところは。

 ふたたび指揮官に戻ったメガトロンは、スタースクリームと一緒にポートへ入っていった。
 その背後で、断末魔の叫びと、美しい音色が響いた。それは“堕落せし者”がその名の通りの最期を迎えた音だった。

「私は立ち上がり、お前は地獄へ堕ちるのだ──」

 足もとに倒れたものを見下ろし、オプティマスは空気が揺れるほど低く宣告した。




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