「オプ 、ィマ、ス⋯⋯。
 ごめ、ん⋯⋯ も、う、 ごけな、ぃ⋯⋯」

 小さく身じろいだ実写の身体から、ぬめる体液が溢れた。命の躍動そのものの色が、オプティマスの機体内部をしとどに濡らしてゆく。

「駄目だ、実写。頼む、逝くな、お願いだ──実写、実写……」

 オプティマスは必死に呼び掛け引き留めようとするが、実写の乱れた呼吸は浅く、途切れ途切れになっていった。

「だいじょうぶ⋯⋯すこし⋯⋯やす、む、だ⋯⋯け⋯⋯」

 小さな身体が弛緩してゆく。
 実写は細長い息を吐き⋯⋯それが、最後だった。

 瞼が落ちる──その一瞬は永遠だった。

「逝くな──実写、実写、実写⋯⋯」

 すべての生命活動を止めた実写を抱え、オプティマスはひたすらにその名を呼んだ。
 彼女の内に在るオールスパークの力に、自身のスパークが共鳴しているのを感じる。完全な死には至っていない。かつてと同じように、緊急モードに陥っているだけだということは分かっている。
 それでも、絶望と共に湧き上がるどす黒い殺意を抑えられなかった。

「大丈夫だ、実写⋯⋯。私がついている⋯⋯」

 長い時間、呼び戻そうと彼女の名を呟き続けていたオプティマスは、ようやく自失から立ち直った。

 シールドを展開する余力も残っていなかった彼は、実写の周りに何重にもケーブルを張り巡らせ、物理的に防御を固めた。己の身体を文字通り盾として、彼女が再び目覚めるまで護り抜くために。






 何故、どうして。
 疑問ばかりが渦巻いていた。
 それでも、一つ、確かなことがある。
 人間たちは殺意に満ちた口を開き、狂った牙を剥いたのだ。
 混乱を越え、その事実を飲み込んだ瞬間、憤怒に目の前が赤く染まった。隠しようも誤魔化しようもない憎悪にスパークが捻れ、悶えた。

 タールのごとく黒くねばついた憤怒と憎悪が焼き付いてゆく。その中で、オプティマスの意識は薄れていった。ただ一つの思いを反芻しながら。


 ──殺し  て や る   。




目覚めの一発が「殺してやる」だったあたり、ステイシス・ロックに陥る直前まで野郎オブクラッシャアアアアアアだったんだろうなっていう…。
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