大事なことなので二回言いました。
生命というものは、いつでも新しい道を見つけるものだ。それは、半分は金属の体を持つトランスフォーマーとて変わらない。
いつの世代からか、サイバトロンにも生まれながらに飛行用のブースターを持つ者が現れた。彼らは確実に数を増やし、その新世代は徐々に全サイバトロン、ひいてはトランスフォーマー全体に浸透していった。この世代交代が起こったのは相当昔の話である。
旧世代──つまり、飛行能力を持たない者。彼らは、もはや絶滅危惧種といっていい。そんな彼らも自身の機体をカスタムすることで後天的にだが飛行能力を有している。まれに飛行能力を持たないままの者もいるが、サイバトロンの軍規には飛行が必須能力として記されている。そういうわけで、軍に所属する者の中に飛行能力を持たない者などいない。そう、いない──はずなのだが。
「⋯⋯お前は何故、ブースターを着けないんだ?」
その例外が、ビッグコンボイの隣りにはいた。うちのタマである。
二人がけのソファーに肩を並べて座りつつ、上っ面だけのニュースを流し見ていたビッグコンボイは、ふと思い出して訊いてみた。
隣りでニボシ(型の固形エネルギー)をぽりぽりやっている彼女はどういうわけか飛行能力を持っていない。
以前ちらりと話題に上ったときの話では、生まれたときからそうだったらしい。それでどうして軍に入隊出来たのかは知らないが、とにかく彼女は絶滅危惧種の“旧世代”として誕生した。
今のご時世そっちの方が珍しいので、ビッグコンボイもその事実を知ったときはかなり驚いたものだ。それ以来、常々疑問に思っていたことなのだが。
「だって必要ないんだもん」
ニボシを食いながらあっけらかんと答えた彼女に、ビッグコンボイは目を眇めた。
今まで、やむを得ず高所から飛び降りたり、撃たれて落下したり、何度か危うい場面はあったのだ。フォローに回ったこともある。
うちのタマも分かっているはずだ。それでも“必要ない”とはどういうことか。
「重量増えるだけで動きにくそうだし。なくても死にはしないし」
ビッグコンボイの剣呑な思考を瞬時に読み取ったうちのタマは言葉を重ねるも、機嫌をとるようなことは言わなかった。
「上手く使えばそうはならん。今よりずっと戦略の幅も広がる」
「でも必要ないのー」
「フォローさせられる俺の身にもなれ」
「じゃあこれからもよろしくね、ダーリン」
ダーリンなどとおぞましい呼び方を、あまつさえ語尾にハートを乱舞させて笑いながら言い放ったうちのタマに、ビッグコンボイはちょっとキレかけた。こうなると、まだニボシを食っている彼女のぽりぽりいう音さえ気に障る。
怒りを抑えようと無言になった彼に、うちのタマはようやく食べるのをやめた。
今度は緩く笑み、その脚をビッグコンボイの太ももへ無遠慮に乗せる。滅多なことでは触れることを許さない、ビーストモードをチーターに持つ者の誇り。その象徴を。
「わたしは、多くは欲しがらないことにしてるんだ。飛行能力がないことを残念に思ったことも、ハンデに思ったこともない」
「⋯⋯⋯⋯ただの言い訳だろ」
ふん、と顔を背けたビッグコンボイは苛々と腕を組む。乗った脚を叩き落してやろうかと考えるが、彼女にとっては命の次に──いや、命と同等、或いは命よりも──大事なそれを乱暴に扱う気もさすがに起きなかった。
「わたしは空を知らないが、風を知っている」
その言葉は強く、けれどとても穏やかに。口調は軽く、しかしどこまでも真摯で。理解するにはその一言で十分だった。
ビッグコンボイは投げやりに彼女の長い脚に視線を落とす。
すらりと美しいフォルム。走るために生まれてきた者だけが持つ独特の脚線美。これを持つ限り、彼女は空に興味を抱きこそすれ、羨望など絶対に覚えないのだろう。
「お前は空を知ってる。どんな感じなんだ?」
こちらの不機嫌を気にした様子もなくころりと調子を戻したうちのタマに、肩がこけそうになった。先ほどの真剣さはどこへいったのか。
落差に呆れつつも、ビッグコンボイは逆に訊き返してみる。
「⋯⋯なら、風は、どんな感じなんだ」
「ん? ⋯⋯んー⋯⋯口で説明するのは難しいな⋯⋯。スピード特化型にチューンナップしてみれば?」
「⋯⋯いい。やめておく」
どれだけ自身の機体をカスタムしチューンナップしようと、そしてひたむきに努力しようと、生まれ持った性能差は越えられない。彼女の世界を、自分は一生かかっても知ることはできない。
それが少し──ほんの少しだけ、寂しい⋯⋯気がした。
うちのタマが垣間見せた、信念ともいえる誇り。たぶん、それにちょっと絆されたのだろう。
再びニボシをぽりぽりやり始めた彼女が魅力的に見えたとか、絶対にそのせい。
そう、一瞬の気の迷い。気のせいだ。
絶対に、気のせいだ。⋯⋯⋯⋯⋯⋯と、思い、たい⋯⋯。
DATE.10/02/21