孵化
その日、彼は鳥を拾った。
緋色と白から成る雛鳥だった。
まだ羽毛も生え揃わず、自分で餌を取ることもできぬほど、生を受けて間もない個体だった。
はっきりしているのは雌ということだけで、齢も確かではないそれに、彼はやわらか人間という名を与えてやった。
拾った彼はというと、熱砂の大盗賊だった。名はシスレー。
シスレーは欲望を満たすためではなく、生きるために盗賊となった男だった。
巨大な帆船を駆り、砂漠に点在する街へ向かう輸送車両を襲っては物資を奪い、亡霊のように彷徨う。そんな生活をしていた。
やわらか人間を保護したのも、物資を求めて輸送車両が通る予定ルートへ向かっていたときのことだ。
見張りの一人が「人が倒れている」と報告を入れた。彼はその姿を己の目で認めると、迷わず回収を命じた。
手枷と足枷を付けられた、緋色と白から成る娘だった。
それがやわらか人間だった。
それから彼の奪う物の中に、彼自身には不要なものが少しばかり増えた。水、食料、衣服⋯⋯人間が生きるのに必要な物だ。