幼雛期
シスレー率いる盗賊は、夜になると砂の海に船を泊める。夏の間は船外で火を熾し、それを囲んでオイルを飲む。砂漠に生息する毒虫など彼らにとっては脅威でもなんでもない。そんな生き物よりも、装甲の隙間から入り込む砂そのもののほうが厄介だ。
冬になれば、砂漠の夜は昼間の炎熱と打って変わって極寒の地となる。人間と違い、シスレーたちはその寒さで死ぬことはないが、オイルが凍って愉快な気分になるわけでもない。
しかし、それでも彼は毎夜、格納庫となっている船底から船室を一つずつ巡り、甲板へ出る。好んでそうしているわけではない。寝支度を済ませたやわらか人間が姿を消すから、仕方なくだ。
見張りを立てるかと考えたこともあるが、彼女は体質的に日光に弱いらしく、昼間は船内でもなるべく日の当たらない場所にいる。
船は鳥籠で、夜はそれを開ける唯一の鍵だった。
シスレーは他人の指図や我儘を嫌う男だったが、眠るまでの幾ばくかの自由を奪うほど非情でもない。
やわらか人間のわずかな自由のため、シスレーは今夜も船内を巡る。
船室で寛ぐ者、夜間の見張りに立つ者、すでに電磁ベッドで休息を取る者。起きている者からは何か異変がないか確認しながら、彼は甲板へ向かう。
非効率的にも思えるが、彼女とて毎夜、外へ出るわけではない。船内の巡回も兼ねて、と考えれば、むしろ理に適っている。
シスレーは最後のドアを開けた。甲板へ続くドアだ。
装甲が音を立てて軋むような空気の中に、微かに歌声が漂っている。古い、この砂漠に住む者なら、誰もが知っている子守唄。
随分と上達したものだ、とシスレーは思った。
これなら歌でも日銭を稼いでいけるのではないか。
しかし、人間ではない彼にはそうと言い切れるだけの確信はない。
そんな不確かな思い付きよりも、彼女には学が必要だった。少なくとも、過去を知られぬ程度にはしっかりとした学が。