蛇の道は蛇
「お前、ほんと真面目だな」
デッカールームに戻ってきたガンマックスの第一声だった。彼の視線の先ではカゲロウが黙々とデスクで作業をしている。パトロールに出る前は他の仲間も書類を捌いたりしていたが、息抜きにでも行ったのか姿は見当たらない。対してカゲロウは数時間前とまったく同じ姿勢で作業をしていた。ブレイブポリスの堅物組も目を見張るような真面目っぷりだ。
「ちゃんと休憩取ってんのかよ? シャドウ丸もBP-115も心配性だからあんま根詰めてると叱られんぞ」
「ああ、大丈夫だ。それにこれは仕事じゃないからな。べつに肩肘張ってやっているわけではなし、平気だ」
「ふーん⋯⋯けど仕事じゃねえなら何をそんなにせっせとやってんだ?」
「見るか?」
「いいのか?」
「構わない」
カゲロウがそう言うので、ひょいと端末の画面を覗き込んで、ガンマックスは固まった。一面にBP-115、BP-115、BP-115⋯⋯。それも、こちらを見ていないものがほとんどで、明らかに盗撮と思われる画像だった。
「What's this?」
「BP-115だが」
「それは分かってる。訊いてんのはそこじゃねえ。これどう見ても盗撮じゃねーか!」
「そうだが」
バレても構わないと思っているのか、それとも盗撮自体を悪いことだと思っていないのか。あまりにもあっけらかんと応えたカゲロウに、ガンマックスは顔を引き攣らせた。
なにコイツ怖い。堂々としすぎてて逆に怖い。
「⋯⋯盗撮は犯罪だってこと、分かってんだよな⋯⋯?」
「撮られている本人も気付いているから厳密には盗撮じゃない」
「気付いてんのかよ!? いや、それはそれとしてそうじゃねえよ、問題はそこじゃねえよ。お前は妹の盗撮が趣味なのか?」
ふむ、と少し考え込んでから、カゲロウは一つ頷いた。
「趣味といえばそうだが、これはライフワークというものに近いかもしれない」
「こっわ」
素で言ってしまったが、カゲロウはまるで気にしていない。
そんな感じで、薄く笑って作業に戻る彼をしげしげ眺めていたとき、BP-115が戻ってきた。タイミングが良いのか悪いのか。
「ただいま戻りました⋯⋯何してるんですか?」
「Ah⋯ いや、まあ、なんだ⋯⋯」
もごもごと歯切れの悪い返事を返したガンマックスに、彼女は何かしら勘付いたらしい。素早くカゲロウの端末画面を覗き込み、げんなりとした表情で溜め息を吐いた。
「またそれ? カゲロウ、撮るのは勝手だけど人に見せるのはやめてよ」
「なぜだ。可愛いのに」
「イヤなの! だいたい、明らかに盗撮な画像を見せられるほうも困るでしょ!」
「お前の画像ならオレは嬉しい」
しゃあしゃあと言ってのけるカゲロウに、BP-115の目がにわかに剣呑になった。
「⋯⋯カゲロウ、今日から一ヶ月盗撮禁止だから」
「なぜだ」
「わたしが嫌がることしたから」
「分かった、もう誰にも見せない。それで許してくれ」
「⋯⋯なら一週間」
「⋯⋯分かった⋯⋯」
突如勃発した兄妹喧嘩はBP-115の勝利に終わり、カゲロウは消沈した様子で席を立つと、トボトボと外へ出ていった。しかし、その背中を見送るBP-115の情けない目といったら。
一度失ったトラウマからカゲロウに厳しくするのが苦手なのは分かるが、この分だと一時間後には許していそうだ。
「⋯⋯にしてもよォ⋯⋯お前、撮られるのが趣味なのか? 気付いてんならとめればいいのによ」
二人してのたのたと自分の席に戻りながらガンマックスが言えば、
「二人のアレはもう職業病みたいなものですからね、とめても無駄です。それに、二人が本気になったら、わたしじゃかわしきれません。だったらこっちも気付ける形でやってくれたほうがまだマシです」
同じく席に戻ったBP-115がくたびれたように頬杖を着いた。
「ちょっと待て。二人って、シャドウ丸もかよ」
「ええ。いまも上にいますよ」
BP-115が上を指差した瞬間、天井板が外れて件の弟が顔を覗かせた。シャドウ丸は音もなく降り立つと、悪びれもなく肩を竦ませてみせる。
「バラすなよ、BP-115」
「バレたところでやめる気もないくせに」
「まぁな」
笑って、シャドウ丸もいなくなる──ちゃんとドアから出て行った──が、おそらく数分後にはまた知らないうちにどこからかBP-115の様子を窺っているのだろう。
「⋯⋯お前、苦労してんだな⋯⋯」
「まあそれなりに。でも、あれに護られているのも確かですからね、とめられません」
「護り方に問題ありまくりだと思うんだが」
「まあ色々あるんですよ⋯⋯色々⋯⋯」
項垂れた彼女があんまり可哀想だったので、ガンマックスはそれ以上、口を出すのはやめておいた。
数日後、広報活動のため街頭に立つBP-115をビルの上から眺めながら、ファインダー越しに彼女を見つめる男たちのカメラにジャミングをかける隠密兄弟の姿があった。
「ったく、堂々と盗撮なんて面の皮の厚い連中だぜ」
「ああ⋯⋯BP-115はオレたち二人だけのものだというのに⋯⋯」
独占欲か、行き過ぎた保護欲か。恐らくそのどちらもなのだろう。
二人はぶつくさと零しながら、刹那こちらへ視線を向けた恋人に、甘い微笑を浮かべてみせた。
ロボ萌え拗らせた紳士に盗撮される夢主を護る双子の話