──やべえ。

 そう思った瞬間には、すでにガンバイクは制御を失っていた。普段は頼もしい相棒もヘソを曲げれば凶器になる。身体ごと振り回され、ガンマックスは体勢を立て直そうと全身に力を込めたが無駄だった。恐ろしい勢いでガンバイクから投げ出された彼は、路面を転がりハイウェイの壁に激突して、その鮮やかな塗装の痕を残しながら滑り、ようやく止まった。

「大丈夫か、ガンマックス!?」
「い、ぃから、犯人追え⋯⋯!」

 後方からかかった声に、ガンマックスは力を振り絞って応える。デッカードも一言で応え、犯人の追跡を再開した。これで犯人を逃したとあってはガンマックスの奮闘が無意味になる。それだけは避けたかった。

(ヴぁー⋯⋯クソッたれ)

 遠くなるデッカードのサイレンを聞きながら、ガンマックスは横倒しになった身体をピクリとも動かせず、心中で毒づいた。
 機体の具合を確認すれば、動力ケーブルの一部が歪んだ装甲に断絶されただけらしく、べつに死ぬほどの損傷ではない。こういう時だけは機械の身体で良かったと心底思う。人間だったら下手したらミンチだ。
 動けないので誰かが回収してくれるのを待つしかないのだが、古巣のハイウェイでトチるなんて情けないったらなかった。
 事故って怖いなーなんてありきたりな感想を、シャットダウンしそうな意識の中で抱きつつ仲間の到着を待っていたら、ふたたび後方からサイレンが近付いてきた。あっという間に傍に来たのは、戦闘では後方支援を主とするBP-115だった。

「ガンマックス! 大丈夫ですか!?」

 現れた彼女になんとか答えようとして、ガンマックスは固まった。
 焦りのあまりか、BP-115はガンマックスの眼前にしゃがみこんだのだ。
 純白の装甲板が描く見事なデルタ地帯に目が釘付けになる。巧妙に隠されているレセプタのハッチさえも見える距離。まだ触れたことのない、魅惑に満ちた秘密の桃源郷。それを目の前にして、ガンマックスは不明瞭だった意識をカッと取り戻した。

「ガンマックス!? ガンマックス、しっかりして!!」

 バイザーのおかげで、BP-115は視線に気付いていない。これ幸いとガンマックスはメモリーに焼き付ける。肩に触れられ、そっと仰向けにされたが、根性で顔の方向だけは変えなかった。
 シャットダウンしてなるものかとカメラアイを爛々と光らせ、他の仲間にも救援要請をしているBP-115の股間を凝視する。ケーブルが断絶し動かないはずの身体が力を取り戻していく。正確には身体の一部に活力がみなぎって、窮屈そうに装甲の中で存在を主張し始めた。

 ありがとうこれでもうホントマジで一ヶ月は大丈夫だよありがとうジーザス!!



 事故もたまには良いもんだなあ、と修理を受けながらニヤニヤするガンマックスに、なにも知らない藤堂はちょっと怯えた。




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