台所ロマン劇場
「前から思ってたんだけどさぁ⋯⋯」
先ほどまで宿題相手に唸っていた勇太が不意に呟いて、席の近いデッカードとデュークが書類から顔を上げた。勇太は数字の踊る教科書に飽きたらしく、頬杖を付いてBP-115の背中を眺めている。
「デッカードってさ、BP-115のお兄ちゃんなんだよね?」
「ああ、そうだよ」
デッカードがひどく優しい笑みで頷いて同意を示せば、でも、と勇太が続けた。
「カゲロウとシャドウ丸もBP-115のお兄ちゃんなんだよね?」
「うーん⋯⋯正確にはカゲロウも、かなあ⋯⋯」
「私とBP-115は同時製造ってことで“双子”と言われてるだけですからね」
相変わらず神出鬼没なシャドウ丸がいきなり天井から現れて訂正した。隠密回路を持つデュークも小さく震えるくらいだ、デッカードは大袈裟に肩を跳ねさせている。
「驚かさないでくれ。頼むから普通にドアから入ってきてくれないか」
「すいませんねぇ、クセなモンで」
「シャドウ丸もカゲロウの弟なんだよね?」
まるで悪びれる様子もなく肩を竦めるシャドウ丸に、勇太は気にせず疑問をぶつける。
「うーん⋯⋯まあ⋯⋯それこそ双子みたいなもんですかね⋯⋯」
「⋯⋯デッカードとカゲロウはBP-115のお兄ちゃんで、カゲロウはシャドウ丸のお兄ちゃんでもあるってことは、四人はみんな兄妹なの?」
「「いや、それは違う」」
デッカードとシャドウ丸が同時にストップをかけた。
しかしどう説明すればいいものか分からない。コンセプト上あるいは機体としての兄弟と、兄弟意識はまた違う。だがその辺りは当人たちもややこしくて説明がしがたい部分だった。
「とりあえず一つずつ整理してみてはどうだ?」
それまで黙っていたデュークが、答え倦ねている二人に声をかけた。
「ううん⋯⋯まず、私とBP-115はコンセプト上、機体としても、兄妹だな」
「カゲロウも機体としてはBP-115の兄ですね」
「えっと⋯⋯そういえば、ちょっと、待って。BP-115ってデッカードのデータと、カゲロウのデータを元にして造られたんだよね。ってことは、二人はBP-115のお父さんとお母さんなの?」
「「えええ⋯⋯」」
ひどく困惑した声を漏らして、二人は顔を見合わせた。
ない。間違っても、ない。大体BP-115以外のメンバーは全員が男性人格を持っているのだ、言うならせめてお父さんであってほしい。
「どっちがお父さんでどっちがお母さんなの?」
「それを言うなら、我々は全員、デッカードが親という話になりますが⋯⋯」
「じゃあ皆を生んだデッカードがお母さん?」
「勇太、私は男だから!!」
「ナイトの旦那ァ⋯⋯話を余計難しくしないでくださいよ」
「よく分かんなくなってきちゃったよぉ〜⋯⋯」
あまりにややこしい関係図に、勇太は頭を抱え始めた。そこで口を挟んできたのはパワージョーだ。
「デッカードとカゲロウの間に生まれたBP-115、カゲロウの弟のシャドウ丸、んでもってそのシャドウ丸はBP-115の実の兄貴って、お前ら兄弟どんだけ爛れてんだって話だよな」
「その言い方やめてくれませんかね!?」
助け舟かと思ったら泥舟だった。
ドラマの見すぎですぜ! とパワージョーに怒鳴ったシャドウ丸だったが、今しがた天井裏から現れた彼に言われたくはないだろう。
カゲロウはよく分かっていないのか「オレたちは爛れているのか?」と首を傾げている始末だった。
「もう意味分かんないんだけど⋯⋯」
「簡単ですよ、わたしたちは皆“家族”ってことです」
パワージョーのせいでますます混乱してもはや涙目になっていた勇太に、穏やかな声がかかった。
「あー⋯⋯ま、そういうことですね」
「そうだな、それが一番相応しい言葉かもしれないな」
あっさり一言でまとめてしまったBP-115に、デッカードもシャドウ丸も頷いた。ややこしすぎて面倒くさくなったのもあるし、何よりその響きがとてもくすぐったくて、そしてそれを容易く口にした⋯⋯口にしてくれたBP-115が愛おしくて、目を細めて優しく笑う。
「家族かあ⋯⋯。じゃあ、デッカードはボクの家族だから、みーんな友永家の家族だね!」
輝く笑顔で言う勇太に、デッカードだけでなく全員が撃沈した。
「⋯⋯私にとってレディは母親のようなものだから、私とレディも家族と言えるのかな⋯⋯」
願うように呟いたデュークに、シャドウ丸が頷いた。そう遠くない未来、彼女が名実共に友永家の一員になるのではという予測を一部のメンバーは持っていたりする。
はにかむデュークを見て笑みを浮かべていた勇太が、ふとBP-115を見つめた。
「デッカードが友永パト吉だから、BP-115は友永パト子かな?」
「勇太、そこは素直に友永BP-115でいいんじゃないかな⋯⋯」
女装デッカードがパト子だからBP-115はパト代(ゴルドラン感)