チリンと涼やかな音が鳴り、オプティマスはその発信源へ反射的に視線をやった。

 なまえの細い首に回る、蒼い鋼の輪。そこに繋がる銀の鈴が、彼女が動くたび音を響かせる。それは彼女の緩く持ち上がった口角をそのまま音色にしたように愉しげだった。

 ラチェット謹製のその首輪は、数日前に彼の手によって半ば強引になまえの首へと嵌められたものだ。理由は、なまえが無言で我々の足元を歩き回るからである。
 妙に存在というか気配が曖昧な彼女は、気付けば傍に立っていたりして、我々だけでなくジャック達も何度も驚かされていた。
 しかし本人はべつに気配を殺しているつもりもないし、普通に足音を立てていると言う。トランスフォーマーの聴覚回路さえ掻い潜っている自覚がないものだから、彼女はやっぱり気付けば傍でニコニコしていたりする。正直、物凄くスパークに悪い。
 バルクヘッドは危うく踏み潰しそうになる場面が何度かあったし、オプティマス自身も蹴り飛ばしそうになったことがある。その度に「自己主張して近付け」と誰もが再三の注意を促した。が、結果としては、彼女には首輪が嵌められることとなった。

 鋼の首輪(鈴付き)という見た目的にちょっとアレな感じなのだが、意外にもなまえ本人が気に入っている。自分で外すことだってもちろん出来るのに、風呂場とベッド以外では外さないそうだ。
 ちなみにラチェットはそうなるであろうことを確信していたらしい。
 私の機体のほんの一部を「ちょっと拝借するぞ」と有無も言わさず提供させられた時はまさか首輪を作るなどとは予想しなかったが、しかし、そんなますますアレな感じの代物を好んで身に付ける彼女はどうなのだろうと思う。

 オプティマスは、彼女が自ら望んで自主的に自身の一部である物を身に着けることに、困惑と何かよく分からない羞恥と仄昏い歓びとを感じている。そして同時に、少しでも嬉しいと思う自分が信じられなかった。
 首輪というのは所有の証だ。普通は嫌がる。彼女は犬猫ではない。

「なぜ外さない?」

 ここ数日で繰り返されたオプティマスの何度目かの問いに、なまえは悪戯っぽく笑った。

「外してほしい?」
「いや、君が着けていたいならそれでも構わないんだが……。嫌ではないのか。その……首輪など……」

 ゆるく首を傾げるなまえに、オプティマスは僅かに口ごもった。

「まるで……まるでペットじゃないか。そんな、誰かの所有物みたいに」
「じゃあ、躾てみる?」

 こちらの言いたいことは分かっているだろうに、完全にからかう瞳でなまえが見上げてくる。
 オプティマスは自身を惑わせるばかりの彼女に少し困ってしまう。しかし、反面で、僅かに高揚する己がいることにも気付いている。だから余計に困るのだ。

 沸々とスパークに生まれる独占欲が彼女の首に在る。誰の目にも見える形で確りと。
 しかも、それを彼女自身が望むのだから堪らない。
 許されていると思い込み、欲望のままに彼女を奪いたくなる。

「オプティマス」

 笑う彼女の唇から、なんとも甘ったれた声がこぼれ──オプティマスは耐え続けていた誘惑にとうとう陥落した。

「嗚呼……。まったく、いけないコだね、君は」

 ねだる君を躾けるには、どんなお仕置きがいいだろう?



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