意識が戻る。
じわりと開けていく視界。
懐かしい匂い。
優しい声。
▼▲▼
「苗字さん、大丈夫?」
「え?あ、はい」
「それじゃあ明日もまたここまで来てね、さようなら」
「さような、ら」
ハッと気づけば優しそうな中年男性が手を振って扉を閉めているところだった。この横開きの扉、何か見覚えが。そうして辺りを見渡すと長い廊下。扉の横にもズラリと扉が並んでいて、天井近くにはそれぞれの役割が記されている。扉の反対側はズラリと窓。
なんだかこれは、まるで、。
「学校?」
また懐かしい夢を見たものだな。作り的に母校でないから何かのドラマで見た記憶なのだろう。今さっきの男性は先生で、さっきまで私は職員室にいたのだな。無駄にリアルだ。
ハッキリしてきた意識でぼんやり考えながら、とりあえず外に出よう、と昇降口まで足を進める。夢なら空を飛んで帰りたいな、なんて年甲斐もなく思った。
(下駄箱どこだろう)
昇降口まで来たはいいが、何年何組所属なのか分からないから当然自分の下駄箱の所在も分からない。どうやらそこそこ大きな学校らしく、目の前にある二年生の下駄箱だけでも十数クラス分あるようだ。
フと、肩に掛かる重みを思い出した。スクールカバンを持っていたのか、この中を探ればヒントが……。
(二年C組……)
2-Cと書かれた下駄箱で自分の名前を探せば簡単に見つかった。履いていたピカピカの上履きをピカピカのローファーに履き替える。そういえば着ている制服らしきブレザーもパリッとしていて新品だし転校生設定かな、なんてぼんやり考える。
……待て。
私はさっき何を見て二年C組だと理解した?
スクールバッグからしまったばかりの生徒手帳を慌てて取り出す。震える手で、もう一度それを開いた。
(私立立海大附属高等学校……)
どこだろう。こんな学校あっただろうか、頭の中の引き出しを必死に探ろうとしても某テニス漫画の芥子色の奴らがチラついて邪魔をする。立海大、立海大、ああダメだ。神の子だとか皇帝だとか、そっちの立海しか出てこない。
後ででいいや、と考えることを放棄して外へ向かう。今までいた昇降口から一番近い校門を目指すことにした。
校門へ着いたところでこの後向かうべき場所が分からない、ともう一度スクールバッグを漁ればスマートフォンも入っていた。見覚えのあるスマートフォンケースでこの夢を見始めてから初めてホッとした。
画面を付けると壁紙には簡略化された地図が書いてあり、赤いマークが記されている。ここへ向かえということだろうか。幸いこの地図のスタート地点も立海らしいので大人しく歩き出す。
軽い足取りとは裏腹に、気分は重くなりつつあった。
20190510 お肉