転入編10



(side丸井)


日曜の部活終わりにコンビニで出会った不思議な奴、苗字名前がずっと頭から離れなかった。

転入日は月曜の筈で、あの日確かにB組まで遊びに来いと言った筈なのに一度も来やがらねぇ。いよいよ金曜になっちまって、あいつは元気にしてるのか、ちゃんと友達できてんのか、つーかそもそも学校来てんのか、とかとにかく色々気になって気付いたらC組に来てた。

教室に入れば普段俺が来ることなんてないからC組の女共がキャーキャー騒ぎ出す。いつもなら鬱陶しい筈のそれも、今は苗字を探すことで頭がいっぱいのせいかBGMにしか聞こえない。

中までズカズカ入り込んだら柳と目が合う。と、柳は教室の後ろ側のドアを指差した。そっちに視線を這わせればあいつの後ろ姿。つーかなんで柳は俺が苗字探してるって知ってんだよ。こえー。


「苗字!何帰ろうとしてんだよぃ!」


近付いてその後ろ姿に声を掛ければゆっくりと振り向いて、どうしたのと一言。いやいや、なんでそんな冷静なのこいつ。

B組来るっつったのに一度も来なかったと文句を言えばうん、とだけ返ってきて思わずツッコんだ。それでもこいつは表情一つ変えずスッと逃げるみたいに歩き出す。もう全然理解できねぇ、けどあの夜もこうやって逃げられたなと思い出して後を追いかけた。


「だって君が友達できなければ、と言ったじゃない」


階段を早足で駆け降りながらそう言った。
そうだったか、とコンビニの駐車場での会話を思い出す。そういえばそうだっかもと返せば解決した、と手を振って帰ろうとするので思わずその手を取った。


「おま、このタイミングで帰る奴がいるかよぃ」

「ええ……ならいつ帰ればいいの」

「いいからついてこい!」


心底理解できないって顔してる苗字を見て、なんか居ても立っても居られずに歩き出す。逃げられてばかりでムカつくんだ、仕方ねーだろぃ。

後ろで何度も俺を呼び止める声が聞こえるがあえて無視して部室に向かう。今日はミーテだけだしこいつも付き合わせて放課後またコンビニ行こう。そんで俺に会いに来なかった五日間の話でもしよう。

部室ついてもまだ誰もいなくて、ずっと繋いでた手に今更恥ずかしくなってきたから離してやったらすげー素早い動きで逃げ出そうとして、運良く来てくれた真田にとっ捕まえてもらった。助かったぜ。


「丸井、なんで私ここへ連れてこられたの」


なんでと言われても逃げられたくなかったから、なんて意味不明な理由じゃ伝わらなさそうで、もっと話したいからと言い変えればあろう事か「そんな理由で」と言われて腹が立つ。


「そんなってなんだよぃ!おい聞けよ!」


ついには俺のこと無視して真田と自己紹介し始める。なんか嫌な予感すんな、と思えばやっぱり真田は苗字を掴んでいた腕をアッサリ離すから、今度は逃がすもんかとまた俺がその手を取った。

不服そうにして真田に邪魔するね、と言い適当な場所に座ったから手も離せないし俺もその隣に座る。
その後すぐに幸村君がやって来たけど、来るなり苗字と親しげな感じで思わず声に出す。でも幸村君は思い出したかのように不貞腐れてそのまま部長席に座った。っつかお昼のことってなに。


「幸村ごめん、私だって真っ直ぐ帰るつもりだったの」

「なのに丸井となら来るんだ」


ああなるほどね、幸村君ってば嫉妬か。
なんだかそのことにちょっといい気になる俺。


「無理やり。ね、丸井」

「だってこいつ逃げようとしてたんだぜ」


逃げるから捕まえる、当然だろぃ?
女と言えばすぐに目の色変えて話し掛けてくるかキャーキャー遠巻きに見てるかの二択だと思ってたから、なんか逃げられるとムカつくんだ。その辺の女とも、親とか親戚の女とも違う反応されて困ってるんだ。

苗字がもう一度幸村君に謝ると、ついに繋いだ手を指摘された。
こうなるって分かってたけどもう少し繋がせてくれてもよかったのに、なんて渋っていれば苗字から催促の声。うーん、幸村君の反応が面白いからもうちょっとだけ粘ってやろ。


「幸村君聞いて!こいつ手放すとすぐ逃げようとすんだよぃ!」

「もう逃げないから」


チラと幸村君を見れば無言の圧力。
さすがにもう潮時か、でも本当に逃げないよな、と不安になりながらも手を離す。


「もう逃げんなよぃ」


そう言うと参った参ったと降参のポーズ。よっしゃ、苗字を降参させたぜぃ。
幸村君もいつもの優しい笑顔に戻った。そのまま二人はミーティングにいるとかいないとかの話を始める。んでまた昼間がどうとか。


「つか昼ってなんのことだよぃ!」


気になりすぎるだろ。
問うても苗字はハアと溜め息を吐いて上を見上げるだけだった。


考えるより先に手が出るタイプの男子高校生
20190512 お肉