合宿編04



午前練習は無事に終了し、昼食の為の昼休憩に入った。

忍足から"猛獣使い"とそれはもう不名誉な称号を賜った私は、何故か氷帝メンバーが集まるテーブルで食事をとることに。曰く忍足がプッシュしたそうな。
立海メンバーからはブーイングが来たが、跡部が華麗にスルーした。幸村へのご褒美(おかず)は夜に繰り越しだ。


「名前さん!やっと話せて嬉しいです!」

「こいつあの日からずっとお前の話ばっかしてんだよ」


向かいの席にいる長太郎がニコニコとそう言うと、宍戸が補足してくれる。
その様子を見た他のメンバーが、ああ例の話のやつか、なんて反応を示す。珍しい女性に出会いその人にまた会いたい、とかなんとか言っていたそうで。


「貴女に会いたかったです!」

「それ、他の女の子にはあんまり言っちゃだめだよ」


恥ずかしいセリフを平気で言う彼に一応注意しておく。意味が分からなそうに首を傾げているが、直視すると男子高校生可愛いモードに入ってしまいそうなので視線は長太郎の隣に向ける。


「なんやそないに見つめて、俺の事好きになってもうたん?」

「くそくそ侑士、そういうのキモいからやめろって言っただろ!」

「猛獣使い扱いをやめてって言うつもりだったけど……関わるのをやめるべきだったね」


忍足はギョッとした後すまん……と言ったきり黙り込んでしまう。言い過ぎたかな、でも大人を揶揄うもんじゃないよ。


「あの忍足を黙らせるとは、中々やるじゃねえの」


よく通る声で跡部が言う。
あの跡部様にお褒めに与り大変光栄、だが待てよ。これも"猛獣使い"に拍車をかけてしまうのでは、もしや忍足はそれを予測して黙り込んだのか。
流石天才、まんまと策に嵌められた。


「跡部、彼は態と黙っているようだよ」

「あかんバレてもうてる」


忍足さんは本当にそういうの好きですね、と呆れたように日吉が零す。


「ならその観察眼を褒めてやる。普通の女かと思ったが、立海もそんな女を寄越す程落ちちゃいないようだな」

「ありがとう。でも普通の女だよ」


普通の女だ。
でもこの世界から見れば私は普通じゃないかもしれない。若返って人生二周目だなんで何処からどう見ても普通じゃない。
少なくとも彼の言う普通の女とは、その辺にいる女子高生の事だろう。


「それにあんな大層な挨拶をしたんだ、お前の働きには期待してるぜ」


跡部の言葉には一々重みがある。
そして指導者として他人を導く力がある。高校二年生に言わた事なのに、素直に三日間頑張ろうと思えた。



▼▲▼





午後練習が始まる。
体力テストに基づきランダムに振り分けられたチーム分けが発表される。

今日私が担当するDチームは幸村、丸井、大石、河村、芥川、鳳、不二(裕)の計七名。
他チームの人員を見るに、かなり良いバランスになっているようだった。各部長が分かれているのでリーダー争いも起こらなそうで安心だ。当然Dチームのリーダーは幸村が勤める。


「ただの打ち合いならいつでも出来る。今日は普段とは違う事をしようか」

「丸井くんと一緒ならなんでもE〜!」


タオルとウォータージャグのセッティングを終え、スコア表を手にした所で幸村が言う。聞かされていなかったが、練習メニューも各チームで考えるのか。もう高校生だし自主性に任せるのはいい事だ。


「手足に重りをつけるのはどうだろう?」

「それ普段からやってる俺らは練習になんねーだろぃ」

「俺達だけ重りを増やせばいい話ではあるけど……苗字さんはどう思う?」


大石が提案するがすぐに丸井に否定される。幸村は大石を肯定するが、まだ迷っている様子で何故か私に話を振ってくる。
あの、私は素人なのだけれど。


「そういうの無茶振りって言うんだよ」

「たまには外部の意見も取り入れようかなってね」


そして集まる視線。
Dチーム全員、普段の練習では物足りないらしく期待の眼差しを向けられる。困ったな。
困りはするが、可愛い可愛い男子高校生達の期待を裏切る訳にはいかない。大人としてもマネージャーとしても、実りある合宿にしたい所存。

少ない知恵を絞ったそれに、彼等はそれはそれは驚くのである。


この世界は新テニ要素皆無ですが、合宿編06話以降少しだけ出てきます。
未読でも問題ありません。
20190519 お肉