忍足から"猛獣使い"とそれはもう不名誉な称号を賜った私は、何故か氷帝メンバーが集まるテーブルで食事をとることに。曰く忍足がプッシュしたそうな。
立海メンバーからはブーイングが来たが、跡部が華麗にスルーした。幸村への
「名前さん!やっと話せて嬉しいです!」
「こいつあの日からずっとお前の話ばっかしてんだよ」
向かいの席にいる長太郎がニコニコとそう言うと、宍戸が補足してくれる。
その様子を見た他のメンバーが、ああ例の話のやつか、なんて反応を示す。珍しい女性に出会いその人にまた会いたい、とかなんとか言っていたそうで。
「貴女に会いたかったです!」
「それ、他の女の子にはあんまり言っちゃだめだよ」
恥ずかしいセリフを平気で言う彼に一応注意しておく。意味が分からなそうに首を傾げているが、直視すると男子高校生可愛いモードに入ってしまいそうなので視線は長太郎の隣に向ける。
「なんやそないに見つめて、俺の事好きになってもうたん?」
「くそくそ侑士、そういうのキモいからやめろって言っただろ!」
「猛獣使い扱いをやめてって言うつもりだったけど……関わるのをやめるべきだったね」
忍足はギョッとした後すまん……と言ったきり黙り込んでしまう。言い過ぎたかな、でも大人を揶揄うもんじゃないよ。
「あの忍足を黙らせるとは、中々やるじゃねえの」
よく通る声で跡部が言う。
あの跡部様にお褒めに与り大変光栄、だが待てよ。これも"猛獣使い"に拍車をかけてしまうのでは、もしや忍足はそれを予測して黙り込んだのか。
流石天才、まんまと策に嵌められた。
「跡部、彼は態と黙っているようだよ」
「あかんバレてもうてる」
忍足さんは本当にそういうの好きですね、と呆れたように日吉が零す。
「ならその観察眼を褒めてやる。普通の女かと思ったが、立海もそんな女を寄越す程落ちちゃいないようだな」
「ありがとう。でも普通の女だよ」
普通の女だ。
でもこの世界から見れば私は普通じゃないかもしれない。若返って人生二周目だなんで何処からどう見ても普通じゃない。
少なくとも彼の言う普通の女とは、その辺にいる女子高生の事だろう。
「それにあんな大層な挨拶をしたんだ、お前の働きには期待してるぜ」
跡部の言葉には一々重みがある。
そして指導者として他人を導く力がある。高校二年生に言わた事なのに、素直に三日間頑張ろうと思えた。
▼▲▼
午後練習が始まる。
体力テストに基づきランダムに振り分けられたチーム分けが発表される。
今日私が担当するDチームは幸村、丸井、大石、河村、芥川、鳳、不二(裕)の計七名。
他チームの人員を見るに、かなり良いバランスになっているようだった。各部長が分かれているのでリーダー争いも起こらなそうで安心だ。当然Dチームのリーダーは幸村が勤める。
「ただの打ち合いならいつでも出来る。今日は普段とは違う事をしようか」
「丸井くんと一緒ならなんでもE〜!」
タオルとウォータージャグのセッティングを終え、スコア表を手にした所で幸村が言う。聞かされていなかったが、練習メニューも各チームで考えるのか。もう高校生だし自主性に任せるのはいい事だ。
「手足に重りをつけるのはどうだろう?」
「それ普段からやってる俺らは練習になんねーだろぃ」
「俺達だけ重りを増やせばいい話ではあるけど……苗字さんはどう思う?」
大石が提案するがすぐに丸井に否定される。幸村は大石を肯定するが、まだ迷っている様子で何故か私に話を振ってくる。
あの、私は素人なのだけれど。
「そういうの無茶振りって言うんだよ」
「たまには外部の意見も取り入れようかなってね」
そして集まる視線。
Dチーム全員、普段の練習では物足りないらしく期待の眼差しを向けられる。困ったな。
困りはするが、可愛い可愛い男子高校生達の期待を裏切る訳にはいかない。大人としてもマネージャーとしても、実りある合宿にしたい所存。
少ない知恵を絞ったそれに、彼等はそれはそれは驚くのである。
この世界は新テニ要素皆無ですが、合宿編06話以降少しだけ出てきます。
未読でも問題ありません。
20190519 お肉