「苗字、今日はBチーム担当だ」
跡部財閥クオリティの朝食に顔を綻ばせていると、跡部から今日の午後練習で担当する事になるチームが言い渡される。
返事をしようとして、はたと気づく。
Bチームには柳がいる。非常に気まずい。
「頼めるな?」
「……お任せください」
黙ってみたがそれを許してくれる人ではない。追い打ちを掛けられ渋々返事をする。私情を挟むなんて大人気ないし仕方ない、となんとか自分に言い聞かせた。
「Bチームって侑士と日吉のとこか」
「そや。なんや不思議なメンバー集まっとっておもろいで」
忍足の言う通り、Bチームは中々面白いメンバーが集まっている。
柳、柳生、不二のお兄さん、桃城、赤澤、そして忍足と日吉の計七名。恐らくチームリーダーは赤澤だが、メニュー提案は柳とお兄さんがやっていそうだ。
天才二人にクセ者もそうなのだが、何より赤澤と日吉が何というかこう、声帯が同じなので非常に面白そうである。生身の彼等的には「なんとなく声が似てるな」くらいに感じているのだろうか。
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午前練習は基礎トレーニングなので、走り込みや素振り、腹筋背筋腕立て伏せスクワットなど、選手たちはタイムスケジュール通りに練習をこなしていく。
素振りと聞けばひたすらラケットを振り続けるものだと思っていたが、濡らして硬く絞ったブランケット(重そう)を振ったり、ペアを組んでフォームチェックを行ったりと、かなり本格的で驚いた。
走り込みもただダラダラ走るのではなく、縄跳びを飛びながらだとか、横向きにステップを踏みながらだとか、逆立ちでグラウンド一周だとか、。グラウンド一周とは言ってもあの跡部財閥クオリティのグラウンドだから相当広いんですけど。
「……テニス部こわい」
「えっ?!」
しまった、声に出てしまっていたらしい。
一緒にウォータージャグとタオルのセッティングをしていた桜乃ちゃんに驚かれてしまった。中三の女の子の若々しさに感動しつつ冷静を装う。
「練習がね、人間離れしてるなって」
「た、確かに……。感覚が麻痺しちゃってたかもしれません」
「ふふっ、竜崎先生や青学の人たちに囲まれてたらそうなるかもね」
桜乃ちゃんと談笑しながらの作業は楽しくてあっという間で、姪っ子がいたらこんな感じなのだろうか、なんて叔母さん心が芽生えていた時だった。
グラウンドの奥の方から怒声と、それからパアアン!と何かが破裂するような音が響く。慌ててそちらへ向かう。
「ちょっと、すごい音が、っ!」
到着すると目を真っ赤に充血させた切原がいて、それを羽交い締めにし押さえ込んでいるジャッカルと目が合う。近くには乾と海堂もいる。
切原達の後ろからニュッと真田が出てきた事で、先の破裂音は彼が切原を殴った音だと気づく。
「苗字、お前はこちらへ来るな」
「ええ……せめて説明だけでも、」
「うちの海堂と一悶着あってな」
乾が補足してくれる。
一悶着あったらしい海堂は、真っ直ぐ切原を睨みつけていて、一悶着あったというか、今まさに悶着してる最中なのだと分かる。
それにしても真田の鉄拳制裁を食らっても赤目モードは解除されないのか。はたまたそれほどまでに切羽詰った状態なのだろうか。
「切原」
「おい苗字やめんか。こうなった赤也はいくらお前でも、」
「真田は静かにしてて」
「むっ……!」
ジリジリと切原に歩み寄るが、彼もまた海堂を睨みつけていて、フーフーと息を荒くしている。怖くないと言えば嘘になるが、可愛い後輩達が揉めている方が嫌だった。
「切原」
「っ、邪魔すんな」
「もう……、こら!」
もういっそ母の気持ちだ。
真田に叩かれたであろう頬が真っ赤に腫れていて可哀想なので、軽めのデコピンをお見舞いしてやる。押さえ込んでくれているジャッカルは、私の突然の行動に驚いていた。
デコピンが効いたかは定かではないが、切原はハッと此方に気付いた様子で目を見開いた。ずっと海堂に意識が集中していたのであろう。
「名前、先輩……?」
「おー、切原が帰ってきた」
ジャッカルと真田は目を見張って固まり、乾からはほう、と感心したような声が聞こえる。依然海堂は不快感を顕にしているが、当の切原は状況が掴めていない様子なので優しく諭してやる。
「切原、何があったか言ってごらん?」
「っ!海堂の野郎が急に突っかかってきたんス!」
「ああ?!テメェの方が先にちょっかいかけてきたんだろうが!」
「あーストップ。整理しよう?」
お互い掴みかかる勢いなので間に入って物理的に止める。チンピラに囲まれているようで心臓が縮こまりそうだが、ここでは一番の大人として極めて冷静でいられるよう努める。
「誰か近くにいなかったの?」
「俺が」
状況を聞きたくて他の三人を見回せば、乾がスッと挙手をする。
「まず走り込み中に俺が切原にぶつかってしまったんだ。靴紐が解けそうなのが気になって注意を怠ってしまった」
注意力散漫だった乾は咄嗟に謝罪できず、それに対し切原が怒り出す。そんな時海堂が現れ、乾が切原に絡まれていると思い込み喧嘩腰で文句を言ったものだから、切原が胸ぐらを掴んだところでヒートアップ。乾は何度も止めたが、カッとなりやすい後輩二人は止められなかった。
そこに運良く現れた真田とジャッカルが切原を押さえつけるも既に赤目モードで冷静さを欠いていた為、鉄拳制裁が飛んだ、と。
まとめるとこうだ。
「じゃあまずは乾がごめんなさいしよう」
私が提案すると、空気がピシリと硬直する。なんでだ、元を辿れば最初に謝るべきは乾だ。勿論手を出した切原が一番悪いが、乾もそれは良く分かっているはずだ。
「切原、俺の注意力が足りず申し訳なかった」
「次は海堂」
「……早とちりして悪かった」
「はい切原」
乾は事が大きくなった責任を感じているのか、切原に対し誠意を持って頭を下げた。海堂も渋々と言った感じだが、しっかりと謝った。
しかし切原はプイと
「切原、君のそのチンピラスタイルが誤解を招いたんでしょう」
「だって――」
「みんなの練習時間がどんどん無くなっていくよ」
「うっ……。すんませんした……」
「はい、良くできました」
もう大分充血が収まった切原の頭をワシワシと撫でてやる。クリクリの毛が可愛いので撫でたまま、改めて乾と海堂に向き直りペコリと頭を下げた。撫でる手に少しばかり力を入れれば切原も渋々といった感じで軽く頭を下げる。
「うちの後輩がご迷惑をお掛けしました。二人はもう練習戻っちゃってね」
「こちらこそ関係のない事に巻き込んでしまいすまなかった。君は良いマネージャーだな」
乾はノートに何かを書き込んだ後、行こう海堂、と走り込みを再開していった。
撫でていた手を止め、今度は真田に顔を向ける。腕を組んだままずっと見守っていたようで、すぐに視線が合った。
「真田、さっきは心配してくれてたのに静かにしろだなんて言ってごめんね」
「いや、寧ろ苗字のお陰で穏便に済んだのだ。礼を言う」
「じゃあ真田も切原にごめんなさいしようね」
「な?!」
いくら切原が手を出したとは言っても、それを正す為に鉄拳を飛ばすのは違うと思うのだ。暴力を暴力で制しても何も解決していない。上に立つ者が規律の為とはいえ暴力を行使すれば、下にいる者たちまでそれを見習ってしまうだろう。
父の背中を見て育つ、ではないけどさ。
「赤也、すまない!」
「ヒィ……!いや副部長頭上げてください!ちょ、ジャッカル先輩もなんとか言ってくださいよ〜!」
「いやなにこれ幻?俺どうすればいい?」
真田がガバリと頭を下げたのがそんなに珍しかったのか、切原は声を裏返らせて怯えるし、ジャッカルは目を擦ったり頬を抓ったりしていて、それが面白くてふふふっと笑いが零れてしまった。
「よし!一件落着したし、真田もジャッカルも練習行ってらっしゃい!」
「あれ俺は?」
「切原はほっぺ手当するからついておいで」
「っス!」
頬を真っ赤に腫らした切原を見て桜乃ちゃんがギョッとしていたのはまた別のお話。
日吉と赤澤の中の人が同じっていうネタ
20190605 お肉