「苗字さん、赤也達の喧嘩を仲裁したんだって?」
「それだけじゃないぜ、あの真田が――」
「ジャッカル少し黙らんか」
「弦一郎が赤也に頭を下げたそうだぞ」
「蓮二!」
切原の件でキャイキャイと騒ぐ男子高校生達が可愛くて、ふふと笑みが零れる。乾つてで聞いたのだろう、柳が事の顛末を一通り説明すれば、みんな思い思いの反応をした。
「っつーかジャッカル影薄すぎだろぃ」
「丸井君、彼がいたから苗字さんが怪我をせずに済んだのですよ」
「あ、そうか。よくやったジャッカル!」
「先輩手のひらドリルっスか」
「俺はあの時苗字が母さんに見えたぜ」
「ママ醤油とって」
「仁王君やめたまえ」
「プリッ」
仁王に醤油を手渡しながら、微笑ましいなと立海メンバーを眺めていたら柳と目が合う。珍しく開眼していて、そのキリっとした目元に少しばかりドキリとしてしまう。
これは違う、決して未成年に対してそんな、違うぞ。今朝の件があったからだ。そうだ、そうに違いない。
「何を見つめ合ってるんじゃ。妬けるのう」
「……私がママならパパは柳かな」
「なっ……!」
今朝からやきもきさせられていた仕返しとばかりにパパだと言ってやれば、柳はより一層目を見開いてからフイと顔を逸らした。照れたのか。愛い奴め。
「柳、これでおあいこね」
「……やはり手強いな」
彼は顔を元に戻したがその瞼はもう閉じられていて、少し嬉しそうにノートを開いた。
その様子を見て幸村がつまらなそうに口を開く。
「なあに、なんの話?」
「なんでもないさ。早く食べてしまおう」
幸村は尚もつまらなそうにするが、柳の一言にみんな時計を確認し慌てて食べだした。
頑張り屋さんの彼らの事だから、早めに昼食を終えたら少しの食休みを挟んで、午後練習前に自主トレーニングでもしているのであろう。
▼▲▼
柳との気まずさも解消し、二日目の午後練習が始まった。赤澤と柳が練習メニューについて相談しているのを横目に、ウォータージャグとタオルのセッティングをしていると、不二のお兄さんが歩み寄ってくる。
「お兄さん、どうかした?」
「フフ、そろそろそのお兄さん呼びなんとかしたいね」
「うーんそうだなぁ……」
顎に指を掛け考える体勢に入る。
"前の人生"であれば不二周助を不二、不二裕太を裕太と呼んでいたのだが。もう既に私の中では不二裕太が不二になってしまっているから今更変えるのも難しい。それに不二裕太のあの嬉しそうな顔を思い出すと、尚更彼のことは不二と呼んであげたくなるのだ。
「裕太の為に悩んでいるのかい?」
「うん、やっぱり彼は不二と呼びたい」
「それならボクのことは名前で呼んでもらっても構わないよ」
ニコリとした笑みを崩さずそう提案してくれるが、リョーマや長太郎と違い彼は数段大人びていて、男子高校生相手と言えど名前呼びをするのは気がひける。恐れ多い、というやつだ。
「嫌かい?」
「いやそういうわけじゃ……、うん、負けた、そうする」
そうする。そうしますからどうかその有無を言わさぬ微笑みはやめてください。
そうとは本人に言えないが、幸村とはまた違った圧力を感じ屈した。大人って呆気ない。不二くんだとか不二さんだとか、敬称でどうにでもなる問題だとは思ったけれど、そうする、と言えば嬉しそうにする彼、もとい周助を見ればそんなことはどうでも良かった。
「フフフ、それじゃ試しに呼んでみてよ」
「おーい苗字、少しいいか?」
「赤澤……空気が読めないね」
柳と話していた筈の赤澤に声を掛けられ、周助は溜め息を吐いた後、それじゃあとアップを始める他のメンバーの元へ歩いて行った。
私は赤澤と柳の元へ駆け寄る。
「何か必要な物が?」
「実はな、柳から昨日のDチームのメニューはお前が考えたと聞いたんだ。それで今日のBチームも頼めないかってな」
正直今日一番恐れていたのはこれだ。
昨日は手塚にも褒められ悪い気はしなかったが、素人の私がテニスの練習メニューを考えるだなんてそもそも無理な話だった。
柳を恨めしげに見遣ればフッと笑い、これはなんだか突き放された気分だ。柳め。
「いつもと違う練習をしたいんだよね?」
「ああ、何か思いついたか!」
「……複数のボールを使って打ち合おう」
これも前の人生で読んだことのある"続編"での知識だ。幾つかのボールを同時に使い打ち合うだなんて普通の人間には難しそうなそれも、超次元的な彼らなら出来ると信じている。
まだ意味が分かっていなそうな二人に改めて説明した。動体視力や反射神経を鍛える、という"続編"受け売りの理由も添えて。
「かなりハードそうだがやってみる価値はありそうだな。柳はどうだ?」
「中々に興味深い。Bチームは一部メンバーの実力に格差がある。しかしこれならばそれぞれ無駄のない練習になるだろう」
柳の太鼓判が押されたところで、Bチームメンバーに召集がかかった。
新テニの5球打ち意味わからないです
20190611 お肉