合宿編15




「先輩らは本当にやる気なんスか?!無茶がすぎるっスよ〜!」

「柳君が言うならばしっかりとしたメニューなのでしょうから私は異論ありませんよ」


召集が掛けられ赤澤から練習メニューが発表された。最初は2球から開始し、慣れてきたら3球、4球と増やしていくようだ。
とにかくラリーを続ける事を目標にするとのことで、使用するコートは2面。曰く、他のメンバーの打ち合いも見る価値があるからだとか。


「日吉、自分だけ体力持たないんとちゃうん」

「うるさいですよ。俺はあの人を超える為ならどんな練習だってやってやります」


Bチームの中でも圧倒的にスタミナが足りなそうな日吉だが、やる気は一番あるようで安心した。忍足もそんな後輩の姿に少しホッとしたような顔をするので、彼も心配していたのだなと、忍足の先輩らしい一面に心が温かくなる。


「ねえ桃、やる気がないなら参加しなくたっていいんだよ」

「んなこと言ってませんって!超やる気っス!」

「フフフ、そうこなくちゃ」


最初は否定的な桃城も、周助に焚き付けられやる気が出たようでこちらにも安心した。
二組の天才と後輩ペアはどちらも上手くやっているようで、意外と一番バランスの取れたチームなのかもな、とぼんやり思った。



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午後練習もそろそろ終わりを迎える頃、Bチームの面々は"5球打ち"の練習に精を出していた。最初こそ3球でも困惑していた彼らだが、たった数時間で5球同時に扱えるようになるなんて、やはり超次元だ。素直に凄いと思った。

ラリーを続けるのが目的の為、スコア表をつける必要もないので主にタオルとドリンクにだけ気を配っていた私は、フとフェンス外に人が集まっているのに気がついた。
見れば跡部率いるCチームのメンバー達で、何かあったのかとそちらへ歩み寄る。


「跡部、何かあった?」

「こいつらはなにしてやがる」

「複数のボールを一度に使ってラリーしてるんだけど……人間技じゃないよね」

「俺様もあれくらい余裕だぜ。アーン?」


話してみると、"普通じゃない練習"が珍しいのか、早めに練習を切り上げて見学しているらしい。
そのまま跡部達と一緒に練習を眺めていたら、菊丸の顔色が酷く悪くなっている事に気付き慌ててコートの外に出る。


「大丈夫?医務室行く?!」

「うう……目が回るにゃ〜」

「赤澤の打球はただでさえブレるのに5球も使っているからな。動体視力が良すぎるので酔っているようだ」


ゲッソリとした菊丸の背中を撫でていると、近くにいた乾が解説してくれた。そういえば原作にもそんな事があったなと思い出す。
このまま医務室へ連れて行きたいが、Bチームの練習後の後片付けが控えているのでどうしようかと困っていた時だった。


「菊丸なら俺が連れていくぜ」

「ジャッカル!」


爽やかに笑いながら菊丸の腕を自身の肩に回しそう言ったジャッカルに、まるで女神様が現れたと言わんばかりに感謝すれば、大袈裟だな、と笑った。
彼の背後から後光が差している……。


「私もそろそろコート内戻るね」

「待ちな」


Bチームメンバーがラリーを終え、タオルやドリンクを手にしている様子が視界の端に映ったので、そろそろ戻ろうと歩き出すと跡部に呼び止められる。


「このメニューもお前が考えたのか?」

「ええと、人の受け売りだから私は発案者じゃないよ」


Bチームのメンバーが何をするか提案したのは紛れもなく私だが、"続編"の真似事である為発案者ではないというのは事実だ。万が一ここで発案者面してみろ、明日も考えろとか言われるぞ。もうネタ切れです。


「フン、明日はAチームにアサインするつもりだったが、俺様達のチームに来てもらおうじゃねーの」


やっぱりかー!
心の中で盛大に突っ込んでから、跡部に苦笑いだけ返してコート内へと戻った。


20190615 お肉