そんな各校混合の夢の対決を間近で見られる、だなんてワクワクしてはみたものの、観月を除いたたった三人でこなさなければならないマネジメント業務に追われ、作業の合間にチラチラと覗き見ることしかできなかった。
「何か手伝うことはあるかい?」
この三日間ですっかり私の城と化したランドリーで、大量のタオルを畳んでいた時だった。音も気配もなく近づいてきていた周助の声に、一瞬だけ手が止まる。
「ごめん、集中してたのは分かっていたんだけど、驚かせちゃったかな」
「周助、試合は?」
さっきまでコートを走り回っていて、やっと洗濯物にありつけるかと思いきや想像以上のタオルの量に辟易していたせいか、いつもなら薄く張り付ける笑みも忘れ淡々と返してしまった。気づいたところで今更ニコリとしてもかえって気味悪がられてしまいそうだし、何より相手は勘の鋭そうな周助なので、心の中でごめんとそっと謝った。
「今やってるやつらが長引いているんだ。観たことがある組み合わせばかりだから抜けてきちゃった」
「それなら桜乃ちゃんの方手伝ってあげてほしいな。新しいドリンク作ってる頃だし」
彼女は少しおっちょこちょいな面があるし、ひたすら機械的にタオルを畳み続ける作業よりそちらを手伝ってあげてほしいのが本音だった。
「苗字さんを手伝いたくて来たんだ」
「気持ちは嬉しいけど、桜乃ちゃんには重労働させちゃってるし、」
「ボクがいるのは迷惑かい?」
それに君の作業だって一人でやる量じゃないだろう、そう不満そうに零した。
迷惑かと聞かれれば否、しかし周りが年上の男ばかりでただでさえ気苦労するだろうに、本業マネージャーじゃない彼女に水仕事を任せているのが申し訳ないのだ。同じ青学なのだろうし周助が手伝う事になんら違和感もない。
思ったことをやんわりと伝えてはみるが、それでも尚彼は不満そうな態度を改めることはない。
「そんな事言ったら君だって同じじゃないか」
「――あ」
言う通り過ぎて思わず声に出てしまう。
年上ではないにしろ、周りは精神的に歳の離れた男子高校生ばかりで、ただの臨時マネージャーだ。
「君って自分の事には興味ないの?」
彼は溜め息を吐いてから、流れるような所作で山のように積もったタオルを畳み始める。制止する隙もなく始められてしまったそれに、もう何も言う元気もなくして大人しく作業を続ける。
「周助、ありがとうね」
「どういたしまして」
それが聞きたかったんだよ、だなんて笑いながら言われたら、なんだか心がソワソワしてしまうのは許してほしい。
男子高校生相手に何を浮ついているんだか。目の前に聳えるタオルの山を一瞥し、そのソワソワもすぐに消え失せた。
▼▲▼
タオルの山が、山から丘になった。
周助から今までのトーナメント戦の勝敗や面白い組み合わせを聞きながらの作業は存外楽しくて、手伝いに来てくれた事に大いに感謝を覚えた頃。ランドリーに誰かが立ち入る音がした。
「ここにいたのかい」
「幸村」
ジャンルは違うが微笑みの貴公子的存在が揃った空間に少しばかり圧倒される。なんというかこの二人には、微笑みと花とそよ風がとても似合うんだ。
「そろそろ君の出番だよ」
「Bコートのやつら随分長かったね」
ふんわりと笑いながら話す二人が美しくて見入っていると、ふとこちらを見遣る幸村と視線が交わる。
「これから俺と不二が試合するんだ」
幸村の言葉を聞き理解に及ぶまで一拍かかる。幸村と周助が試合、何それすごく観てみたい、と子供のようにワクワクしてしまう。
「これ終わったら観に行ってもいいかな?」
「もちろん!」
タオル地獄が終ったら少しだけ休憩を貰える手筈になっているので、ワクワクした気持ちのまま幸村に聞けば、彼も子供のように顔を綻ばせる。
「ボクの応援もしてくれるかい?」
「周助も応援するよ。二人のかっこいいところ期待してるね」
確かに超次元なそれは瞬きも忘れてしまうほど衝撃的なわけだが、その超次元さを差し置いても、テニスに熱中する彼らはキラキラと輝いていて、皆等しくかっこいいのだ。
周助は私の答えに満足したのか、先に行くね、と立ち上がったので、改めてお礼を言って手を振った。
残された幸村の方はと言えば、私の答えに満足していないどころか、いつものように分かりやすくむっとして腕を組んでいる。
「ご機嫌斜めですか」
「……まったく、誰のせいだと」
「そりゃ立海生的には幸村を応援すべきなんだろうけども――」
「そうじゃなくてさ」
片方の頬をプクッと膨らませて斜め上の方向へ視線を投げつける様が可愛くて、意地悪を言ってしまいそうになる気持ちを必死で抑え込む。なんだってこの男子高校生はこんなにツボを刺激してくるんだろうか。
「いつの間に不二と仲良くなっちゃってんのさ」
「あ、そっち?」
「ばーか」
「こらこらお口が悪いよ」
二人を応援することではなく、周助と仲良くしていたのが気にくわないらしい我らが神の子は、神の子に似つかわない悪態をつく。それすらも可愛い。可愛いけれど一応大人として注意はする。
「俺のことは名前で呼ばない癖に」
「ああ、呼び方の話だったのね」
「ずるい」
君のその言動の方がよっぽどずるいと思うのだけれど、そうとは本人に言わないが、男子高校生の「ずるい」は本当にずるい。"例の五文字"が脳裏を掠めて慌てて思考をフラットに戻し、なぜ周助と呼ぶに至ったのかを懇切丁寧に説明してやる。
「ご理解頂けた?」
「納得はしてないけど理解はした」
彼も試合に行くのか、踵を返す。
が、すぐに立ち止まる。
「俺ってさ」
「うん?」
「わがままボーイなの?」
何故それを。
そう聞く間もなく幸村はスタスタとランドリーからいなくなった。
シングルス戦、赤澤めちゃくちゃ強そう
20190625 お肉