素人にはどう凄いかの説明をするのが大変難しいが、お互い一歩も退かない試合だった。御察しの通り神の子が勝利を収めたものの、周助もかなり粘った。
それに伝家の宝刀
「赤也ぁ、そんな落ち込むなって」
昼休憩に入った。
昨日の夕食時を経たからか、今日のトーナメント戦で親睦を深めた者同士や他校の仲良し同士でテーブルを囲うことになっていたので、私はチーム青春と昼食をとることにした。芥川が混ざりたがっていたが、切原の一睨みで退散してしまった。
「切原はどうしちゃったわけ」
着席するなりズンと落ち込んだ様子の切原が目に入る。陰鬱なオーラを漂わせ、下唇をガシガシと噛んでいて若干の怖さもある。
「苗字は聞いてやるな」
「ひどい、除け者にした」
「うわ、ジャッカルひっでー」
切原が聞かれたくないならそれはそれで構わないけれど、他の二人が知っているのに自分だけ知らせてもらえないのはなんだかやっぱり少し寂しい。チーム青春はいつでも青春だけれども、絆の差をひしひしと感じてしまう。
「名前先輩が俺のことカッコ悪いって思わないなら別にいいっス」
暗いトーンではあるが、私が感じた寂しさを覆すように切原が言う。絆の差を感じたばかりの筈なのに、私も知ってもいいんだと思うと、仲間と認めてもらえたような気がして素直に嬉しかった。
「こいつさ、氷帝の日吉に負けたんだよぃ」
「改めて言われたらやっぱまだ立ち直れそうにないっスね……」
「中学の新人戦ん時は勝ったのにな」
「ウッ!傷口広げないでください」
ほどほどにしといてやれよ、とジャッカルが苦笑いを零す。
数年前は切原優位で勝利したのに今回のトーナメント戦では負けてしまったと。詰まるところ日吉はリベンジを果たしたわけだ。
「一回勝った奴に負けるのめちゃくちゃ悔しいしカッコ悪いし、後で副部長の制裁受けなきゃだし、午後やることなくなっちまったし、」
そのままブツブツと呟いたまま更に落ち込んでいく後輩の姿に、どうにかして元気付けてやりたいと思うが、大人の癖に月並みな言葉しか出てこない。
丸井も慰め飽きたのか食事に夢中になってしまうし、ジャッカルも困ったように笑うだけだ。やっぱり私がなんとかしてやりたい。
「日吉は前より強くなってた?」
「ううっ、正直かなり」
「切原は?」
「……え?」
少しの間を置いて聞き返される。
ポカンとした様子が酷く可愛らしい。
「油断してた?」
「最初は……でも途中からヤベーって思って本気出してたんスよ」
「最初から本気なら勝てた?」
「――それは、分かんないっス」
バツの悪そうな顔を見るに、恐らく最初から油断せず本気で戦っていたとて負けていたのかもしれない。彼のプライドが邪魔してそう言えないだけできっとそうなのだ。
「質問攻めしてごめんね、これで最後。切原も前より強くなったの?」
「なった!なりました!なってます!」
三段活用みたいなそれに思わず笑う。見れば丸井とジャッカルもそれを聞いていたのか吹き出していて、顔を見合わせまた笑う。切原は突然笑い出した先輩三名にえ?と目を見開いている。
「赤也、フハッ、一回でいいっての!」
「え?俺なんか変なこと言いました?」
ツボに入ってしまったのか未だ肩を震わせる丸井と、釣られてニコニコ笑ってるジャッカル、それにやっぱり意味がわからなそうにする切原。
チーム青春が眩しい。
「ふふっ、まあいいや」
「名前センパァイ!どういうことっスか!」
「まあまあ、切原も日吉も成長してるってこと。次やったら今度は勝つかもしれないし、また負けるかもしれない」
「成長……」
「そ。まだまだ発展途上よ」
セイチョウ……ハッテントジョウ……とうわ言のように繰り返す切原だが、さっきの陰鬱なオーラはとうの昔に吹き飛んでいて、大人としての役割はほぼ達成したと言ってもいいだろう。
「名前先輩」
「はいな」
「俺成長します!」
「その意気だ青少年!」
切原が両手でガッツポーズを作り意気込むので、私もそれに倣って小さくガッツポーズで返す。
切原は、やる気出てきたら腹減った!と残っていた昼食をガツガツと掻き込み、更にはお代わりしようと席を立った。
「なんつーかよ、名前ってすげーよな」
「何がよ」
「あの赤也を一瞬で元に戻すとかありえねー」
「出会って二週間とは思えないよな」
ジャッカルの言葉にハッとする。
第二の人生が始まった日。あれからもう二週間も経ったのか。あの時思わず口をついて出た「立海」という言葉、それに反応してガラ悪く絡んできた切原、困ったように謝るジャッカル、「もう帰んの?」と引き留めてくれた丸井。
最初に出会ったのが君たちで本当に良かった。お代わりを持って戻ってきたホクホク顔の切原も含めて、そんな気持ちで三人に微笑んだ。
チーム青春の三人はずっと笑顔でいてほしい
20190625 お肉