転入編05



(side幸村)


朝練を終え教室に入ればいつも騒がしい教室が更に騒がしい。何かあったかと考えて思い出したのは、昨日の部活の休憩中、柳が言っていたことだ。



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「明日、俺のクラスに転入生が来る」

「ほう?参謀にしては情報が遅いのぅ」

「俺も先程聞いたばかりだ」


中等部の頃も転校したりして来たりとあったが、今まで柳の情報がここまで遅いことはなかった。それに突っ込んだのは仁王で、一緒にいた柳生も珍しそうな顔をしている。


「柳のクラスってことはC組か」

「精市、残念ながら転入生は女子だそうだ」

「なーんだ、男子だったらテニス部勧誘しに行こうかと思ったのに」


俺の考えを当てられたことにはもう驚かない。
が、女子生徒か。以前からテニス部目当てで転校してくる女子がいたな、と思い出して少し苦笑い。
近くで話を聞いていた柳生と丸井はもう興味を失ったようで、ストレッチを始めている。仁王だけは興味があるのか柳に食いつく。


「で、どんな女子なんじゃ」

「今朝担任と顔合わせをしていたようだが、さすがに校舎をうろついている生徒がいないから全く情報がない」


今日は日曜日だし学校に来ているのも運動部しかいないだろう。それにしたってあの柳が、ここまで情報をとれていないのが本当に珍しすぎる。そんな視線を向ければ少しムッとしていて、それが面白くてクスクスと笑う。
仁王はなんじゃつまらん、と柳生達のストレッチに混ざっていった。



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うちのクラスからも何人かC組を覗きに行ったようで、その中の男子たちの言葉を借りるならその転校生は中の中。見る人によっては可愛いし、見る人によっては可愛くない。実際その男子グループの中でも意見が割れていた。

いつもより騒がしくなった校内にうんざりして、そうだ昼休みは屋上で癒されようなんて考える。
美化委員の俺が中学の頃から大切にして来た屋上庭園。勿論俺だけではなく先生方や先輩に手を借りて築き上げてきた楽園。それを知っているからかいつもは群がってくるファンの子達も屋上には足を踏み入れない。
それが暗黙の了解だった。はずなのに。


「君、誰?」


屋上についてすぐに目に付いた。見知らぬ女子生徒がベンチで何か食べている。
別に飲食禁止でもないし散らかしている様子もない。だけど気に食わなかった。俺が中等部一年の頃から少しずつ整備してきたこの屋上庭園、暗黙の了解を知らないはずがないだろう。だってもう5年も経つんだぞ。


「ねえここ、あまり勝手に立ち入って欲しくないんだけど」


あまり強く言って、学校での俺の立ち位置が悪くなるような事はしたくない。けれど朝から騒がしくされてイライラしてたから有無を言わさぬ威圧感を出してしまった。

上履きのカラーは二年だからタメ口でいい。早く出て行ってくれ。そんな俺の気持ちなんて知らないかのようにゆっくりと咀嚼を続ける姿にまた少し苛立つ。そして。


「立ち入り禁止でした?」


……、いや、そう言われると、別に立ち入り禁止ではない、けど、うん。
あまりにも普通に、ただただ普通にそう言ってくるもんだからなんだか拍子抜けした。そしてさっきまでの苛立ちが嘘のように消えていて、そんな自分に驚いてしまう。
さてどうしようと苦笑いして首を傾げた。


「禁止ではないんです?」


柄にもなくなんて返そうか迷っていたら痺れを切らしたのか女子生徒が言ってくる。禁止ではないんだけど、と返せば今度は彼女が首を傾げた。そしてたっぷり一呼吸おいたあと、そう、とだけ返ってきた。

不思議な子だな。
それが彼女への第一印象。


20190511 お肉