転入編07




「二人は仲が良いんだね」

「柳とは中学の頃からの仲だね」

「部活も同じだ」


知っていることを知らないフリで話すのは嘘をついているようで少し心苦しい。その部活がなにであるかは知っているが、自分から言いだした癖に悪いことをした気がして、そう、と素っ気なく返す。


「部活が何か聞かないの?」

「別に二人が何部でも関係ないし」

「俺らはテニス部だ」

「あ、言うんだ」


二人が何部でも関係ないのは事実。
でも関係ないと言った時に幸村が少しむくれた顔をして、それに気づいた柳が早々にネタバラシをした。


「やっぱり苗字さんは不思議だよ」

「ああ、それにかなり落ち着いている」

「それはこっちのセリフ。二人とも落ち着いていてとても話しやすいよ」


私がそう言うと二人は顔を見合わせたあと綺麗に笑った。
顔が良い、と言ってしまったらそれまでなのだが。あまりにも優しくふんわり微笑むから、素直に綺麗だと思った。造形も、雰囲気も。

五限の予鈴が鳴ったので、次の授業はなんだっけ、と歩き出しながらまだ覚えきれていない時間割を頭にぼんやり思い浮かべていると幸村に呼び止められる。


「今日の放課後時間ある?」

「あるけどない。じゃ、幸村はまた来週」


振り返らずに答えてそのまま手をヒラヒラと振り屋上を後にした。



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お昼休みの後柳から精市がむくれてたぞと言われたのでそれは月曜に謝らなきゃね、とだけ返していつも通り過ごした。

六限終了のチャイムが鳴り、教室内が騒がしくなる。帰り支度を済ませたのと教室の前方からキャーキャーと黄色い叫び声が聞こえてきたのは同時だった。
今日の晩ご飯は久しぶりに自炊しようか、土日は電車に乗って東京まで出てみようか、なんて考えながら教室を出ようとした時だった。


「苗字!何帰ろうとしてんだよぃ!」


振り向けば、日曜の夜に会った赤い癖毛の彼。なぜ呼び止められたのか分からなくてどうしたの、とそのまま口にする。


「お前一度もB組来なかっただろぃ」

「うん」

「うん、じゃねーよ!」


なんでこの子ほんのりキレ気味なの。やはり今時の高校生は考えていることが分からない。
とりあえず分からないなりに丸井がすごく目立っているのは理解できたので、逃げるように昇降口まで歩きだす。あ、コラ待てよ!と丸井もついてくる。


「だって君が友達できなければ、と言ったじゃない」

「はぁ?……あ、そういえばそうだったかも」

「ね、ほら解決した。じゃあそういうことで」


そのままローファーに履き替えて、じゃあと手を振ろうとしたところでその手を丸井に掴まれる。
うん、やはり何度考えても高校生の考えることは何一つ理解できやしない。これがジェネレーションギャップというやつか、私も老けたなぁ。


「おま、このタイミングで帰る奴がいるかよぃ」

「ええ……ならいつ帰ればいいの」

「いいからついてこい!」


そのままスタスタと歩き出す丸井。当然手は掴まれたままなので私も着いていかざるを得ない。
丸井は大層目立つようで、昇降口からずっと周りの女の子達がキャーキャー騒いでいる。しかもその丸井が最近やってきた転入生の女の手を握って歩いてるのだ。黄色い声だけではなく絶望めいた叫び声まで聞こえる始末。

ああこれ、月曜日はクラスメイトに質問攻めかな、と近い未来の自分に心の中で南無三と手を合わせた。


20190512 お肉