転入編09




「苗字、こんなところで何をしている」

「あら柳さっきぶり」


次にミーティングルームに入ってきたのは柳で私は手をヒラヒラと振る。後ろに銀髪が見える気がするが詐欺(ペテン)師は怖いので見なかったことにする。


「なんじゃ参謀、そんな所で立ち止まったら入れんじゃろ」


ああすまない、と言いながらこちらに歩き私の隣に座る柳。丸井と柳に挟まれた。
続けて入ってきた銀髪の詐欺(ペテン)師はこちらを一瞥し心底嫌そうな顔をした後、私とは一番離れた席に座った。女の子が苦手そうなのはなんとなく想像していたがこうも態度に出されると少し傷つく。いや男子高校生の言動にいちいち傷ついてもいられないか、なんせこちらは人生二周目の大人だ。


「参謀の知り合いかの」

「転入生の苗字だ。苗字、こちらはチームメイトの仁王、こんなやつだが仲良くしてやってくれ」

「仲良くはせんでよか」


柳を通して紹介される、が仁王はそのまま頬杖をついて外方(そっぽ)を向いた。大人的解釈で好意的に捉えるならアレだ、照れ隠しってやつだ。


「苗字は精市をフっていた筈だが、心変わりでもしたのか?」


ピシッ、と空気が凍る。この達人(マスター)は、とんでもない爆弾を落としてくれたものだ。
柳がそう言った途端丸井ははぁ?!と大声をあげるし真田はクワッと目を見開いて眉間にそれはそれは深い皺を作るし仁王はついたばかりの頬杖からズルっと顔を落っことすし、幸村は、あら。いつものアルカイックスマイルでこちらを見ているだけだ。まあ本人が余裕そうならいいや。


「は、なに、え?幸村君フラれたの?」

「参謀、詳しく」

「ほら勘違いされた。柳わざとそういう言い方した」

「別に俺は構わないよ?事実だし」

「幸村まで悪ノリしないの」


私覚えた。
男子高校生はこういう冗談がお好き。


「い、色恋に(うつつ)を抜かすなどたるんどるぞ幸村!」

「なあに真田、俺に文句あるの?」

「こらこら幸村煽らない」


フったフラれたの問答で少し顔を赤らめた真田が声をあげるが、何ともないように幸村が返す。それにまた私が叱れば仁王がククク、と肩を揺らす。
今笑うところがあっただろうか、強いて言うなら慌てる真田が面白いくらいか。


「いや、ククっ、幸村に叱る女がいるとは、ククク、」

「え、今のそんなにおかしい?」

「精市をこんな風に扱うのはお前くらいだろう」

「元はと言えば柳のせいだよ」


未だに肩を揺らし続ける仁王は放っておいて、昼間の話をしてとりあえず誤解を解いた。丸井はつまらなそうにそんなことかよぃとガムを膨らませて、あいつらおせーな、なんて言い出した。

仁王の笑いが収まった頃にまたミーティングルームの扉が開く。入ってきたのは桑原と切原と眼鏡の紳士(ジェントルマン)


「あー!苗字先輩!どもっス!」

「よう苗字、元気か」

「二人ともどうも」

「なーんだ、赤也もジャッカルも知り合いだったのか」


二人と挨拶をすると幸村がちぇ、とつまらなそうにする。幸村と昼食をとる時は、いつもゆっくり食べた後余った時間に庭園や草花にまつわる話をしていただけ。
そういえば彼らとコンビニで知り合った事は特に話していなかったな、なんて思い返していたら、いつの間にか目の前まで来ていた柳生比呂士に手を差し出されたことで意識を戻される。


「二年F組の柳生比呂士と申します」

「二年C組苗字です」


差し出された手にそのまま握手をし軽く頭を下げると、それに満足した様子で仁王の隣へ腰掛けた。桑原は丸井の、切原は真田の隣に腰を掛けようやくミーティングが始まる。


クラス分けはほんのり原作設定寄りですが動かしやすさ重視の捏造です
20190512 お肉