二重線
「財前お前ほんまええ加減にせえよ」
「いきなり来といてなんなんすか。昼飯の邪魔なんで後にしてもらえます?」
コンビニでご飯を買った後、光ちゃんと一緒にまた昇降口に帰ってくると仁王立ちの謙ちゃんが待ち構えていた。会計時以外はずっと手を繋いだままなのだが、当然それを指摘されてから言い合いが始まる。
「名前ちゃん困らせんのやめえや。お前のオモチャちゃうねん」
「謙也さんのモンでもあれへんやないですか。ほんまウザいっすわ」
「お、落ち着こう?とりあえずご飯食べよう?ね?」
悪くなる空気に息が詰まるし、昇降口は人の往来が激しく大変目立つので場所の移動を提案する。
「ほんなら視聴覚室行きましょか。あ、謙也さんは着いてこんくてええですよ」
「は?名前ちゃんと二人にしたら何するか分からへんのに行かないわけあれへんやろ」
「ビークール、ビークール」
険悪なムードのまま視聴覚室に入り適当な座席に座る。右手には謙ちゃん、左手には光ちゃんがそれぞれ座る。人を挟んで喧嘩するのはやめてくれ。
「二人ってそんなに仲悪かったっけ」
「元々この人と仲良うなった覚えないっすわ。仲良うしてんの名前先輩だけです」
「俺は財前と手繋いどった事に怒ってんねん」
「だって離してくれないんだもん」
まるで人のせいみたいな言い方に口を尖らせる。
もう二人なんて知るもんか。買ってきた(正確には光ちゃんが買ってくれた)パンを頬張ってその味に集中する事にした。あ、美味しい。
「はあほんま折角名前先輩と二人で昼食えると思うとったのに。飯まずなりますわ」
「そもそもお前が適当な事言って手繋ぎ出したのがあかんねや」
「名前先輩とイチャつけないからって後輩に僻みですか?そういうのやめてもろてええです?」
「俺が仲ええのにお前の方が焦ってんのちゃうんけ」
「はいはいストップ!ご飯食べよ」
だんだん二人のやりとりに呆れてきたのでいい加減止めてご飯を食べるよう促す。
それでも睨み合っているので流石にもう面倒臭さが勝ってきた。仲良くはしなくてもいいけど、目の前で喧嘩されるのはいい気持ちがしない。
「大好きな友達と大好きな後輩が喧嘩してるのすごく嫌なんだけど」
「うっ、名前ちゃんごめんな、もうせえへん!」
「すんませんした。先輩の前では一生やりません」
光ちゃんの私の前ではという言葉に少し引っかかるが、とりあえず平穏が訪れて一件落着だ。この二人については後で白石に相談しよう。
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その週の土曜日、家でゆっくりしていると電話の着信音が鳴り響いた。ディスプレイには忍足謙也の文字。
「もしもし」
『名前ちゃん、今ええか?』
「平気。どうした?」
『あんな、マネが風邪引いてもてん、代わり頼めへんかなって』
「おっけー任せて!支度して行くね」
『ほんまに助かるわ!おおきに!』
「また後でねー」
『おん、気い付けてな』
前にも何度かこういうことがあり、その度に駆り出されていたので慣れている。ただ休日の練習に参加するのは初めてだったので、不安半分ワクワク半分で支度を始めた。
程なくして学校に着いたが、すぐに普段とは何かが違うことに気づく。休日の学校だからというのもそうだろうが、なんとなく空気が違った。
その違和感の正体は、テニスコートに入ってから分かった。四天宝寺の物ではないユニフォームを着ている生徒がいる。
「急に頼んだのに来てくれて助かったわ」
「白石!今日違う学校の人いるの?」
「あれ、謙也から聞いてへんの?アイツもろもろすっ飛ばしよったな」
どうやら東京の学校が遠征に来ているらしいが、人が増えたのにマネがいなくて困っていたようだ。来て良かった。暇してて良かった。
「やる事はいつもと同じ?」
「おん!でも量多いからしんどかったら手空いた部員にも手伝わせるから言うたってな?」
「まかセロリ!」
「あかんそれは寒すぎや」
白石は態とらしく腕をさすって凍えそうなポーズを取る。仕事内容は今までと変わらないようなので早速仕事に取りかかった。
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201906 お肉