レプリカの恋
「名前ちゃん助かるわ」
「謙ちゃんお疲れ!試合見てたよー相変わらず速いね」
「そやろ?!かっこええやろ?!」
「そんなかっこいい謙ちゃんはボール拾い手伝ってくれるかな」
「まかしとき!」
試合が終わった謙ちゃんが挨拶しに来てくれたので、タオルを渡してからそのままヨイショして仕事を手伝わせる。酷い話だが人手が足りないので仕方ない。
ごめんね謙ちゃん、ありがとう謙ちゃん。
「自分謙也と仲ええのん?」
使用済みのタオルを回収している時だった。いつの間にか背後にいた人に話しかけられる。聞き覚えのない低くねっとりとした大阪弁に少し驚きながら振り返ると、件の遠征してきた学校のユニフォームを着ていた。
「え、はい」
「警戒しやんといてな。謙也の従兄弟の忍足侑士いいます。よろしゅうな」
「噂の従兄弟さん!お話はよく聞いてるよ!苗字名前です、よろしくねー」
「その噂ってええ話?」
「なんかすごいモテるからムカつくって」
「名前ちゃん!余計なこと言うたらあかん!」
丸眼鏡の彼は謙ちゃんの従兄弟だそうで、よく聞く彼の話をそのまま伝えるとボール拾いを終えたのか謙ちゃんが駆け寄ってくる。
やっぱり犬っぽくて可愛い。
「なんや謙也、こないなかいらしい彼女おったんやったら紹介しいや」
「ええやろ?かいらしやろ?」
「謙ちゃん!否定しなさい!」
「名前ちゃんもう俺ら付き合うたらええやん?」
謙ちゃんにしてはタチの悪い冗談に一瞬言葉が詰まる。普段はこういう男女の話になるとすぐ顔を赤くする癖に、クラスメイトから童貞とか言われたら焦って吃る癖に。そんな真面目な顔をされると冗談に聞こえないじゃないか。
助け舟はすぐに現れた。
「謙也さん次試合やって部長が呼んではりますよ」
「まーた財前に邪魔されてもうたわ。ほなら名前ちゃんも侑士もまた後でな!」
謙ちゃんに手を振ってから向き直ると思案顔の侑士が目に入る。光ちゃんはスタスタとドリンクを取りに行ってしまった。
「侑士、くん、でいいかな?」
「ん?なんでもええよ。謙也みたいに可愛く呼んでもろてもええで」
「ほんと!じゃあ侑ちゃんにしよ」
「自分大阪の子やないん?」
「親の転勤でねー。で、謙ちゃんがこっち来て初めての友達なの!」
「友達、なぁ」
そのまま侑ちゃんは考え込んでしまったので、マネとしての仕事を再開させた。
途中途中で謙ちゃんや小石川が手伝ってくれたので、なんとか仕事を全うしあっという間に日が暮れた。遠征してきた氷帝という学校の選手たちは近くに宿を取っているらしく、練習が終了した後も近場のたこ焼き屋さんやお好み焼き屋さんの話に花を咲かせている。この後食べに行くのだろうな。
「名前ちゃん、今日は侑士と飯行くから送っていけへんのやけど大丈夫やろか」
「平気!楽しんできてね!」
「ほなら俺が送りましょか?」
「財前はあかん!絶対あかん!」
「なして謙也さんが返事するんすか。名前先輩に聞いてんですわ」
「二人とも平気!今日は白石誘ってるから!それじゃまた明日ね!」
ポカンとした二人に手を振って白石が待つ部室へと急ぐ。部誌を書いたり戸締りする仕事があるらしいがそろそろ終えた頃だろう。
部室へ入るとまだ部誌を書いている白石がいた。
「苗字さんもうちょい待っとってなー。今日忙しくて書いとく余裕なかってん」
「ん。ゆっくり書いて!」
何分経っただろうか。
白石が書き終えたというので一緒に戸締り確認を手伝って部室を後にした。もう外は真っ暗だった。
「ほんで相談て?」
「謙ちゃんと光ちゃんの事なんだけどね、なんかこの前から急激に仲悪くなった気がして」
「あーそれなぁ……俺も結構手焼いててん」
今週あった視聴覚室での出来事以降、何かと顔を合わせる度に言い合いをしている二人について相談する。
今までの二人は多少言い合う事はあってもただのじゃれ合い程度、ネタで済むレベルだった。それがどうにも最近は本気の言い合いな気がしてならないのだ。そもそも光ちゃんは謙ちゃんの紹介で知り合ったというのに。
「あの二人苗字さんの事になると冷静でおられんくなんねん」
「どうしたものかねぇ」
「一つ、二人を黙らせる方法思いついてんけど」
白石が立ち止まる。
私も数歩進んだ先で立ち止まり振り返る。真っ直ぐ此方を見つめる彼の瞳に吸い込まれそうになる。
「俺と恋人ごっこせえへん?」
言葉の意味を理解したのと、白石がこちらに歩いてきて私を抱き締めたのは同時だった。
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201906 お肉