欺瞞
今日も風邪でお休みのマネに代わってお手伝いをする為に学校へ来ていた。
あの後謙ちゃんから『白石に変なコトされへんかったか?!男はみんなオオカミやで!』というメールが来ていたが、どう返せば良いのか分からず無視したままだ。
「名前ちゃんおはようさん!昨日メール送ったんに見てへんやろ」
「謙ちゃんおはよ。ごめん、充電切れてたかも」
「まあ無事ならええわ。ほなら今日も手伝いよろしゅうなー!」
「うん、頑張ってね」
やっぱり騙しているような気がして、上手く笑えているか心配だ。
午前練習も終わりお昼休憩になり、私は蔵ノ介くんに呼ばれ部室でお弁当を食べる事になった。他の部員達は氷帝との交流も兼ねてミーティングルームで食べるようだ。
「蔵ノ介くんお待たせ」
「全然待ってへんで。ほな食べよか」
お弁当を食べながら、午後練習の簡単なスケジュールや使用するコートの話などをする。
まだ蔵ノ介くんと付き合った事は誰にも言っていないが、蔵ノ介くん曰くこうやって既成事実を作る事が大切だそうで。ご飯は一人じゃなければ楽しいので誰と食べるのも文句はないが、やっぱりちょっと心が痛む。
「名前ちゃんええか?こういうんはドッシリ構えたらええねん」
「ドッシリ、ね……」
「俺の可愛い彼女やねんからいつも通りニコニコしとき。君には笑顔が一番似合うとるよ」
いつかも言われたそのセリフに顔が熱くなる。大阪人はみんなこういう恥ずかしいセリフをサラッと言えてしまうものなのだろうか。偽りの彼氏なのに、なんだか擽ったい気持ちだ。さっきまで心を痛めていた筈なのに蔵ノ介くんの言葉で救われた気がした。
「前言撤回、照れた顔が一番可愛いわ」
恥ずかしさに上限はないのか、あるなら早く到達して欲しい。
▼▲▼
今日の部活も滞りなく終了した。
氷帝の選手達は自家用ジェット機で帰るらしい(意味が分からない)ので校門までお見送りする。帰り際侑ちゃんに、謙也をよろしゅうな、と言われたので返事の代わりにサムズアップで返しておいた。
「名前ちゃん!今日こそ一緒に帰ろか〜」
「謙ちゃんお疲れさま!ごめんね、今日も蔵ノ介くんと帰るからまた明日ね!」
「ちょお待ち」
振った手を掴まれてドキリとする。
まるで信じられないとでも言いたそうな顔で謙ちゃんが言う。
「自分白石のことそんな風に呼んどった?」
「え?ああ、昨日からだよ」
「昨日なんかあったんか」
掴まれた手に力が入るのが分かった。指の骨が軋む。
痛みに顔を歪めた時、後ろから抱き締められる。フワリと漂う甘い匂いに、すぐにそれが蔵ノ介くんだと気付く。
「謙也、その手離したって」
「はあ?白石何してん?名前ちゃんから離れろや」
「痛がっとるやろ。手離しなや」
「急に来て意味分からへんやろ。名前ちゃんなんで嫌がらへんの?さっきの呼び方なんやの?なあ、」
二人は私の頭上で言い合う。
謙ちゃんは未だに理解できないと言った顔をしていて、見ているのが辛くなってきたところで、蔵ノ介くんが掴まれていた手を無理やり離してくれる。骨が折れるかと思った。
「昨日から付き合うとんねん」
「……はあ?」
「名前ちゃん行くで」
「あ、ちょっと、……謙ちゃんまたね!」
蔵ノ介くんが肩を抱いたまま歩き出すので、顔だけ振り返りもう一度挨拶をする。謙ちゃんは唖然と立ち尽くしていた。それにしてもいかんせん強引すぎやしないだろうか。
「蔵ノ介くん、」
「ええから、俺にまかしとき」
確かにこういった事は彼に任せる方が良さそうなので、私はいつも通りの日常を過ごす事に努めよう。下手に動けば嘘が露呈するだろう。
その晩、お風呂から上がったところで謙ちゃんから着信があった。
「もしもし、謙ちゃん?」
『名前ちゃんさっきごめんなぁ。手痛かったやろ、それ謝りたくて』
「吃驚したけど平気だよ!」
『ほなら良かったわ……』
「謙ちゃんどうした?元気ないね」
『なあ、白石が言うてた事ほんまなん?ほんまに付き合うとるん?』
うん、と言えばいいだけなのに、大切な友達に嘘を吐くという行為に良心が痛み中々言い出せない。
『さっき白石と電話しててん。付き合うとるけど今まで通り名前ちゃんと仲良うするんやでって』
やはり蔵ノ介くんに任せて正解だった。
恋人ごっこはするけどちゃんと謙ちゃんとの仲が壊れないようにフォローしてくれている。後でお礼のメールを入れておこう。
でも元気がない謙ちゃんに少し嫌な予感がする。
「もしかして、仲良くすること躊躇ってるの……?」
『ちゃう!それは絶対ちゃうから!はぁ、一番の敵は財前かと思うとったわ……』
「え?」
『なんでもあらへんよ、明日もいっぱい喋ろな!』
良かった。
明日も今まで通り謙ちゃんと仲良しの友達でいれる。いつも通りの大切な日常。
おやすみの挨拶を交わして電話を切った。
_____
201906 お肉