眠れる森
次の日の月曜日。
いつも通り謙ちゃんと朝の挨拶を交わす。いつも通りじゃないのはそこに蔵ノ介くんが加わったこと。休み時間の度に謙ちゃんの席に集まりワイワイと話す時間が楽しい。
「ほんでそのまま侑士置き去りや!」
「ハハハッなんやそれ、東京版謙也やんか」
「あ?!白石それ貶しとんのんか?!」
「ふふっ侑ちゃんかわいそう」
帰りの自家用ジェット機で飛ばしすぎて侑ちゃんが乗り物酔いしたのに、氷帝の部員達は放置して帰ってしまった話で盛り上がっていた時だった。
光ちゃんが教室に入ってくる。
「名前先輩」
「なんや財前、名前ちゃんなら今日も白石と帰るで」
「は?なんで部長?」
そう言えば昨日の帰り、光ちゃんはいなかったなと思い出す。
「蔵ノ介くんと三人で帰る?」
「あかんで、俺は名前ちゃんと二人きりで帰りたいねん。そゆことやから財前は諦めなや」
「ちょお待ってください、情報量多くて追いつけんのんですけど」
光ちゃんは額に手を当て考え込んでいる。そこにニヤニヤと笑う謙ちゃんが茶化しに入る。
「ほなら財前は俺と二人きりで帰ろか?」
「キモいんで黙っとってもらえます?ってかなんで先輩と部長が二人で?いつから蔵ノ介くんなんて呼んではった?部長も苗字で呼んどったんちゃいます?」
「落ち着きいや。この二人は土曜から付き合うとんねん。そやから俺ら二人負け組」
「あ、ちょっと目眩するんで出直しますわ」
「え!光ちゃん大丈夫」
「ええって名前ちゃん、放っとき」
そのまま光ちゃんはフラフラとした足取りで教室を出て行った。心配だったが蔵ノ介くんに止められてしまったので大人しくしておく。
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それから数日もすれば、蔵ノ介くんと付き合っている噂は全校中に回った。光ちゃんの時よりも規模が大きいのは、モテ度の問題なのだろうか。
てっきり怖い先輩達に虐められたりするのかと思ったが、逆に応援ムードなのが驚いた。クラスメイト曰く、明らかに白石がゾッコン、だからだとか。偽りの関係だからゾッコンも何もないんだけどなぁ。
「名前ちゃんお待たせ」
「蔵ノ介くんお疲れさまー」
今日もテニス部の活動が終わるまで待ちまた一緒に帰る。彼との恋人繋ぎも慣れたし、恥ずかしいセリフを言われても照れることは無くなった。顔のいい友人、顔のいい後輩、顔のいい彼氏(仮)、これだけ囲まれていたらそりゃ慣れる。
「なんや最近名前ちゃん全然照れてくれへんくなったなぁ」
「慣れって怖いね」
「マンネリか。ほなら今日はちょっと寄り道しよか」
手を引かれるまま歩く。
辿り着いたのは大きな公園で、夜だからか人はいないが、それほど暗い雰囲気もない。
「ここな、たまに自主トレで走り込みにくんねん」
「おー!頑張り屋さんだね」
「そやろ?もっと褒めてええで?」
「いい子いい子してあげよう!」
適当なベンチに腰掛ける。
宣言通りいい子いい子と頭を撫でると、蔵ノ介くんの髪の毛が想像以上に柔らかいので驚いた。流石はミスター
完璧、髪のお手入れまでバッチリだ。触り心地がよく撫でる手が止まらない。
「蔵ノ介くんの髪の毛気持ちいいね」
「ん。俺も撫でられんの気持ちええわ」
「ふふったまにまたこうさせてね」
流石にセットが崩れてしまいそうなので撫でている手を降ろすがその手をソッと握られる。どうしたの、と蔵ノ介くんを見遣れば視線がカチリと合わさった。
「俺あかんねん」
「うん?」
「名前ちゃんの笑った顔とか照れた顔みたくてたまらんねん」
また恥ずかしい事を言う。
しかしこれしきでは恥ずかしくなくなった。人間というのは慣れる生き物なのだ。
「せやけど最近全然照れんくなってしもたやろ?ほんでどないしたらええのんか焦っててん」
「もう。蔵ノ介くんがいつも恥ずかしい事言うから慣れちゃったんだよ」
依然見つめ合っているのでこれに関しては少し恥ずかしいが、造形の整った顔も見慣れすぎてしまった。だから大丈夫だった。
「なあ、キスしてもええ?」
大丈夫な筈だった。
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201906 お肉