禁じられた遊び





正直恋人ごっこでキスなんてする必要はないと思う。思うのだが、どうにも流されやすい私は小さく頷いてしまった。
いいのだ、寧ろこんな男前とキスできるなら役得だ。


「ほんまにええのん?」

「別に初めてじゃないし」


蔵ノ介くんは少しだけ驚いた顔をした後、徐に顔を近付けて、そっと触れるだけのキスをした。

初めてじゃないのは本当だ。ファーストキスも処女も、全部中学時代の元彼に捧げてしまったのだ。今更ビビっていても仕方がない。それにドッシリ構えろと言ったのは蔵ノ介くんじゃないか。
それでも、それでもやっぱり猛烈に恥ずかしくなって俯いた。顔にじわじわと熱が集中する。


「顔上げえや」

「やだ。むり。今はむり」


ええから、とその大きな両手で顔を包まれ上を向けさせられる。
そして思わず目を見張る。何故なら蔵ノ介くんも真っ赤になっていたからだ。彼でもこんな顔をするのかと内心驚いた。


「あかん、めっちゃかわいい」


依然として顔は固定されたままで、どうしようもなくなって目線を逸らすことしか出来ない。


「目逸らさんといて」

「だめ、むり、心臓壊れそう」

「名前ちゃん」


ただ名前を呼ばれただけなのに、いつも通りの筈なのに、心がトクリと跳ねる。


「名前ちゃん、俺を見て」


恥ずかしくてどうしようもないのに、蔵ノ介くんの優しい声に反抗する気にはなれなくて、ゆるゆると視線を戻す。アーモンドカラーの瞳に捕らえられ、呼吸することも忘れそうだ。
俺を見て、という言葉が酷く切なそうに聞こえるのは何故なのだろう。今まさに彼を見ているというのに。


「好きや」


息を呑んだ。
今、彼はなんと言ったのだ。


「さ、遅うなったら親御さん心配させてまうしそろそろ帰ろか」

「え?あ、うん」


時が止まったかのように固まっていたら、いつの間にか立ち上がっていた彼に手を差し出されて我に帰る。そのまま手を繋ぎ歩き出すが、隣にいる彼の横顔を盗み見ても、いつもの整った顔で涼しげな笑みを浮かべているだけ。

気のせいだったのかもしれない。
蔵ノ介くんとの甘い雰囲気が見せた幻影。きっとそうなのだろう。


「名前ちゃん忘れとる?これ恋人ごっこやで」

「……そうだった」


幻影では無かったけど、恋人ごっこなのだった。そりゃ甘ったるく愛を囁きあったりもするだろう。
雰囲気に呑まれていたさっきまでの自分を殴りたい。恥ずかしすぎる。そして蔵ノ介くんは演技派すぎる。キスした後の赤い顔、あんなの見たら本気に捉えてしまうだろう。


「ふふっ、私も蔵ノ介くん大好き」


彼からはうんともすんとも返ってこなかったが、繋がれた手にギュウと力が入ったので、これが彼なりの返事なのだろう。
可愛いところもあるのだな、と笑った。

私と彼は共犯者。




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201906 お肉