まだ始まっていない
「変やと思わへんのですか」
「やーかーらー!あの二人が幸せそうなら俺はええんやって!くどいやっちゃな〜」
忘れもしない、氷帝が遠征に来ていた明けの月曜日。名前先輩と白石部長が付き合っていると知った日。あれからもう二週間と少し経ったが、俺はいつまでもスッキリしない気持ちでいた。
前までアレだけ名前ちゃん名前ちゃん騒いでいた謙也さんは驚くほど冷静で、俺だけが取り残されたような気持ちになる。彼らを疑う気持ちが底を尽きない。
でもそれは当然だろう。
今や渦中の二人は学校公認カップルで、しかも部長側は先輩にベッタリなのに、当の名前先輩は何処吹く風と今まで通りに過ごしている。これはおかしくないだろうか。
「先輩はほんまに部長の事好きなんやろか」
こういう疑問が湧いても何も不自然ではないだろう。
現に俺がこう投げかけると、謙也さんはいつも決まってバツが悪そうな顔をする。彼もそう考えているんだという何よりの証拠だ。
「あんな、好きやあれへん奴と態々付き合うたりせえへんやろ」
そして毎回誤魔化すのだ。
自分だって、そんなわけないと思っているはずなのに、思いたいはずなのに。体裁を気にして思った事が言えなくなるなら俺は大人になんてなりたくない。
「小学生の恋とちゃいますよ。好きやなくても付き合わなあかん状況やって、」
「財前」
正直あの二人の"付き合わなくてはいけない状況"なんて想像も出来ないし全く計り知れないが、そう思うのが妥当だった。
あまりしつこく言いすぎただろうか、それでも納得できない俺を謙也さんは遮る。見た事もないような苦しそうな顔を浮かべて。
「これ言うんは最初で最後やけどな、名前ちゃんが大阪来てからずっと傍におって見てきたんは俺や。白石に恋してへんことは分かってんねんで」
「せやったら、」
「ほんでも、大好きな子と大切な仲間がそうなんのを選んだんやったら形だけでも応援せなあかんやろ。祝福せなあかんやろ」
俺はなんてガキなのだろう。
何やかんやで大切なチームメイトであるこの人に、こんな顔をさせて何を言わせてしまったのだろう。俺よりもずっとずっと大人で、それが悔しくて、そして寂しい。
「すんませんした。アンタもアホな割りにはそこそこちゃんと考えてはったんですね」
「アホは余計や!ほんま口が減らんやっちゃ」
湿っぽくなった空気を一新させたくていつものように毒を吐けば、いつものように返してくれる謙也さんに、今だけは尊敬してやる。ほんの少しだけだ。
「まあでも、名前ちゃんが本気じゃないんやったら寧ろ今のうちに奪ってやらなあかんかもな〜」
「はあ?今の流れ諦めてたんとちゃうんですか?」
「分かっとらんな〜!ま、財前は大人しく見とったらええねん!」
「なんやムカつくわ。蹴ってええです?」
「どぁっ!、ちょお蹴ってから言うんおかしない?!」
少し前までしんみりとしていたのに、こいつ俺より大人だなとか思っていたのに、奪うってなんだ。俺の尊敬を返してほしい。しかも大人しくしてろとはなんだ。
そんな気持ちを込めて謙也さんの尻を思い切り蹴飛ばしてやった。
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201906 お肉