小指に纏わりつく
「なあ名前ちゃん、今日の部活な、」
「ミーティングだけなんだっけ?蔵ノ介くんから聞いてるよ」
蔵ノ介くんが渡邊先生に呼ばれ教室を出て行った後、珍しく謙ちゃんが私の席までやってきて声を掛けてきた。
「そやねん。ほんでな、ちょおっと相談したい事あってん」
本当に何から何まで珍しい。
今まで一年以上謙ちゃんと友達をやってきて、彼から相談なんてのはされた事がなかった。あっても部活の愚痴程度だ。わざわざ彼が私に言ってくるという事は、中学時代からのチームメイトである蔵ノ介くん達にすら言いづらい事なのだろう。蔵ノ介くんが席を外しているのを見計らってこうして言ってくるのが何よりの証拠だ。
「いいよ!今日は一緒に帰ろっか」
「話早ようて助かるわ!ほんまええ友達持ったで」
「蔵ノ介くんには私から上手く言っておくね」
サムズアップを添えて放課後の約束を取り付ける。パアと太陽のように笑う彼を見るに、余程嬉しいのだろうというのが窺える。ほなまた後でな!といつもの調子で自分の席へ戻っていく彼を見送って、蔵ノ介くんには一緒に帰れないという旨のメールを入れておいた。
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あっという間に放課後になり、"いつもの場所"でテニス部のミーティングが終わるのを待っていれば、一番先にやってきたのは慌てた様子の蔵ノ介くん。ミスター
完璧でも慌てる事があるのだな、と思うとおかしくて少し笑ってしまう。
「蔵ノ介くんお疲れ様!」
「ニヤニヤしてなんやのん、というか今日帰れへん言うとったのにここおるん見えたから焦ったわ」
「今日は謙ちゃん待ち」
謙ちゃん待ち、と言った瞬間分かりやすく表情を曇らせる蔵ノ介くん。彼は本当に、こんなに表情に出やすい人だっただろうか。
「なんそれ」
「相談聞いてあげるの!大切な友達が悩んでるからね」
事実であって嘘ではないし、こう言えば彼も食い下がれないのを分かっていて言う。
観念したように大きな溜め息を吐いた蔵ノ介くんは、私の頭をポンポンと撫でてから、いつもの綺麗な笑みを浮かべ口を開く。
「ほんまは男と二人で帰んのむちゃくちゃ嫌やけど、俺の可愛い彼女んことやし信用してんで」
「ふふっ、私のかっこいい彼氏は理解があって助かります」
キスをしたあの日から、蔵ノ介くんとはこうやってカップルを強調させるような事を言い合うようになった。抱き締められたら背中に腕を回したし、キスをしたいと言われたら素直に頷いた。
「好きや」と言われたら「私も」と答えた。
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「謙ちゃんのお家久しぶりだ〜」
「ほんまやな。二年なって最初の中間考査以来ちゃう?」
「うわ、もうそんなに経ったのか」
あれから謙ちゃんと一緒に帰宅したが、外では言いづらい話とのことだったので、久しぶりに彼の家にお邪魔している。
イグアナちゃんも元気そうで何より。
「それで相談って?」
「あー、そやった、ええと、うーん」
過去に何度も遊びに来たことがあるので、いつも通りの定位置に座り込んで早速本日の本題に入るが、言葉を選んでいるのか、はたまた大層言いづらい内容なのか、中々話が始まらない。
「そんなに言いづらいならまた今度でも、」
「それはあかん!早ければ早い方がいいっちゅー話や」
「ふふっ、なにそれ」
話すタイミングにもスピードを求めているのか、それがなんだか謙ちゃんらしくて思わず笑ってしまう。
「あんなぁ名前ちゃん……」
「うん?」
謙ちゃんもいつもの定位置に座っているが、何故か正座をして背筋をピンと伸ばしている。そして真っ直ぐと此方を見ながらポツリポツリと話し始めた。
「白石のことでな、確認せなあかんことあってん。聞いてもええか?」
「うん。なんだろ?」
蔵ノ介くんのことでの相談。
なるほど、それなら最近彼と一緒にいるのは私だから適任かもしれない。
「その前に!」
どんな相談をされるのかと構えていたら、謙ちゃんが笑顔で小指をピシッと立て差し出してきた。突然の事に驚いて肩がピクリと跳ねる。
「名前ちゃん、今から俺には嘘つかへんって指切りしよか!」
指切りをしてまで、これから何を言われるのかと、考えただけで心がザワザワと騒ぎ出した。
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201906 お肉