何も変わらない
「謙ちゃん!今日もいつものとこね!」
「おん!ええ子で待っときや〜」
中学卒業と共に大阪に越してきた。理由は良くある親の転勤というやつで、父の昇進が切っ掛けだった。
新しい家から近いという理由で選ばれた四天宝寺高校も、もう通い出して一年と少し。一年生の時同じクラスだった忍足謙也とは何かと縁があり、二年生になった今も仲の良い友達だ。
お互いのことを謙ちゃん、名前ちゃんと呼び合う仲で、彼の部活が終わるのを待ち一緒に帰るのが日課となっていた。
今日もいつも通りスマホゲームで時間を潰し、テニス部の活動が終わる時間を見計らって昇降口を出た時だった。
「あれ、謙也さんの彼女」
「あ!えーと、」
「財前っすわ。いつになったら名前覚えるんです?鳥頭なところも謙也さんそっくりですわ」
財前。謙ちゃんの後輩。
中学時代から同じ部活の後輩だったようで、今年の春から彼も同じ高校に進学してきたらしい。既に何度も顔を合わせているが、いつも謙ちゃんの彼女扱いをしてくるし、謙ちゃんへの
口撃が凄まじいのでなんとなく彼のことが苦手だった。
「何度も言うけど彼女じゃないからね」
「謙也さんならまだ部室におりますんで。じゃ」
付け加えよう。人の話をスルーする所も苦手だ。
スタスタと去っていく彼を見送り部室の近くまで行く。部外者が部室まで訪ねるのは気が引けるので、近くのフェンスに寄っ掛かる。ここがいつもの場所だ。
「名前ちゃーん!」
「謙ちゃん!お疲れー!」
程なくして部室から出てきた謙ちゃんが私を見つけて走り寄ってくる。その姿が犬みたいで可愛いのは本人には言わないでおこう。
そのまま二人で歩き出す。
「さっき後輩くんに会ったんだけど、また彼女って言われた」
「あいつほんっま生意気やな〜」
「謙ちゃんからもしっかり否定しておいてよね」
思い返せば財前に訂正するのはいつも自分だけで、謙ちゃんはそういう時否定してくれていない。まあ否定したところであの生意気な後輩が素直に言うことを聞くとは思えないが。
ふと謙ちゃんが立ち止まっている事に気が付いた。振り向いて急かす。
「謙ちゃーん、置いてっちゃうよー」
「ええんちゃう?」
「え!じゃあ置いてくからね」
「あー、そやない」
はあ?と言いかけたが、いつもの明るく太陽みたいな彼ではなくて思わず口を噤む。地面を見つめたまま、今まで見たこともないような真剣な顔をしていた。テニスをしている時ですらこんな表情はしないのに。
「そのままでええんちゃうの?」
「……謙ちゃん?」
「そやから、」
そのまま言わせてはいけない気がした。何故かは分からないが私の第六感がそう告げた。だから目に入ったたこ焼き屋さんの看板を指差して態とらしく遮る。
「謙ちゃん!あそこのたこ焼き食べてこ!」
「……あ、ああ、そやな」
私の日常が壊れるまで後少し。
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201905 お肉